アンデットな村人の僕 17
「いや、こちらこそ。賢者様のお弟子さんたちにこんな雑用をさせてしまって……」
「おーいミハル、帰ったのか?」
にっこり笑って、ミハルさんは厨房の方へ歩いていった。
厨房の中で何があったかわからないけれど、しばらくしてミハルさんが戻ってきた。
腕組みをしてミハルさんが立っていて、巨漢の料理長さんは僕らに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「えっと、お手伝いしたいと言ったのは僕ですから、謝らないで下さい」
ちらっとミハルさんを料理長さんは見た。
腕組みをしたままのミハルさんは笑顔のまま。
「とっておきのをごちそうしますから、かんべんして下さい」
「あのね、騎士団総長の邸宅でお食事なさるところを、イルダに会うというから、ここに来ただけで、ここでお食事なさるはずないでしょう」
二人の会話を聞いて、私とタケルくんは目を合わせて困ってしまった。
「あの、昼間いただいたサンドイッチ、おいしかったですよ」
「うん。食べたいな。それと、あと一人食べさせたい子がいるんだけど」
アデルと僕がミハルさんと料理長さんに言うと、今度はミハルさんと料理長さんがまばたきをして目を合わせた。
「いえ、それでは……その……」
ミハルさんが言ったとき、店にイルダとフードを目深に下ろしたお客さんがやってきた。
「私にも、そのサンドイッチという料理とお酒をいただけないかしら」
「総長様?!」
料理長の男性が驚いて声を上げた。
「ミハル、今夜は店を貸し切りにさせてもらう」
「ちょっ、どういうこと、イルダ」
「明日からここにいる全員で特殊任務についていただきます。その間はわが館の料理長と侍女たちで店を運営いたします。作戦会議と親睦会といったところですね」
騎士団総長ロミルダが下町に来ることも、宰相よりも身分が上の賢者の弟子たちが店に来ていることも俺からすれば、なんじゃそりゃ、って感じだか、とりあえずサンドイッチを用意することにした。
厨房から店内に戻ると、かわいい女の子のお客さんが一人増えていた。
「これがサンドイッチというものなのですか、タケル様」
「そうだよ、ソレイユ」
「どうやって召し上がるものなのですか?」
このお嬢さんもなんか上流階級の育ちっぽいな。
サンドイッチを作ってくれたいかつい体つきの丸坊主の料理長さんは、仕事のないときは料理長をしているけれど、騎士団で武芸師範をしている人で、名前を聞いてアデルは「あっ!」と驚いていた。
三年に一度王都で行われる武芸大会で優勝した有名な騎士の人らしい。
「俺はリドリー。よろしくな」
僕らも自己紹介をした。名前を言っただけだけど。