アンデットな村人の僕 16
「失礼します」
応接室の扉がノックされて入って来たのは赤毛のショートカットで、目元が涼しい若い女性だった。
「あっ、イルダ」
「まさか、タケルなのか?」
タケルくんと凛々しい感じの女性がしばらく見つめあった。
「二人は面識があるようですね。イルダは騎士団メンバーのスカウトとして勤めていただいています。こちらはアデルさんとタケルさん、賢者様のお弟子さんで私が呼んだ客人です」
「了解いたしました、では失礼致します」
あたしはタケルに話しかけたいのを我慢して、騎士団総長に一礼して応接室から出た。
「お二人はこの館に今夜はお泊まり下さい。タケルさん、イルダに会いに行かれるならば、大通りにある酒場でミハルという部下が働いてますから、ミハルにイルダと会いたいと伝えて下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
タケルくんから、イルダさんが村の猟師さんの娘で村から出てから一度も戻ってないことや、昔の話を聞きながら大通りを酒場に向かった。
その間、少し気になることが。
なんとなく視線を感じて、視線のほうをちらっと見ると歩いている女性と目が合う。
これがお師匠様が言っていたタケルくんの魅了の魔法の効果なのかも。
「どうかした?」
タケルくんは気づいてないみたいだけど。
「いらっしゃいませ、あら?」
不審者としてイルダに目をつけられていた二人のお客さん、かわいいシスターさんとかわいい男の子がまたお店に戻ってきた。
「あの、騎士団長さんからうかがって来たんですけど、ミハルさんはどなたですか?」
シスターさんが私に声をかけてきた。
「はーい、ミハルは私ですよぉ。どんな御用件かしら?」
「イルダに会いに来たんだ」
タケルくんが言うとミハルさんは目を細めてにっこり笑って、最初に来たときと同じようにテーブルに案内してくれた。
「イルダを呼んで来てあげるから待っててね」
ミハルさんがタケルくんにウインクしてから、店の入口に閉店の看板を出して出て行ってしまった。
「夕方だけど店を閉めちゃった。大丈夫かなぁ」
タケルくんは雑貨屋さんの息子で、村の宿屋さんのお手伝いもしていたから、商売のほうが気になるみたいだった。
「おっ、いらっしゃい。ミハルは?」
坊主頭で筋肉の塊みたいな大きな体の男性がエプロンをつけながら奥から出てきたので、私はびっくりした。
「総長さんから話は聞いてるよ。そうか、イルダを探しに行くついでにさぼってやがるな。酒場は夜から開店だから、適当にそのへんの席で座ってのんびりしててくれ」
鼻唄まじりでテーブルを拭いたり、厨房に戻って料理の仕込みをしたり、その大きな体の男性はてきぱきと開店準備を始めた。
「僕にお手伝いできることはありますか?」
「おっ、悪いな、でも助かるぜ。テーブルの上のランプを灯しておいてくれ。俺は厨房でちょっと料理してくるからよ」
私たちはテーブルの上のランプを灯していった。
外の日が暮れ始めて少し薄暗くなり始めていた店内が、やんわりと暖かい光に満ちていく。
「なんかいいね、この雰囲気」
「そうですね」
そうしているうちに、ミハルさんが戻ってきた。
「ごめんなさいね、イルダはもうちょっとしたらここに来るから、って、なんで二人が開店準備をしてるのかしら?」
「すいません」
タケルくんがすぐにミハルさんに謝った。