アンデットな村人の僕 15
あたしは裏口から店の厨房に入った。
「あら、イルダさん」
おっとりとした声でウェイトレス姿のミハルが近づいてきた。ミハルはスカウト仲間だ。
「今さっき来た客のシスターと旅人風の二人はまだ中にいるか?」
「いますよ」
「他に待ち合わせてる客とかいないか?」
「見た感じ、いなそうですねぇ」
「そうか」
この甘ったるい口調さえなければイライラしないんだが、優秀なくせに緊張感がない。
「あっ、あのバカ野郎が……チッ!」
「あらあら」
あたしは見習い騎士が店の入口から入ってきたのを見て走った。
おおかたやつは上官に、とりあえず不審者二人を屯所に連れて来いとでも言われたのだろう。
魔法障壁のある古都に瞬間移動で侵入してきた連中に、格闘訓練もろくにできていない見習いのガキがどうこうできるとは思えない。
サンドイッチを頬ばっている不審者二人に俺は緊張しながら近づいて行った。
「てめぇはバカか」
二人のテーブルに近づく前にスカウトのイルダに腕をつかまれて、厨房に連れて行かれた。
スカウトのくせに、と思うがイルダの口調の荒さに俺は言い返せないでいると、ミハルが「まあまあ、二人とも、落ちついて」と間に入ってきた。
「俺は命令であの二人を……」
「だまってろ」
イルダがそう言い捨てて、厨房から出て行った。
「なんなんだよ、あいつ……」
「ここは私たちにお任せ下さい。ね?」
にっこりと笑ってミハルが言って頭を下げるので、ここはまかせることにした。
「不審者はミハルに任せてきましたと上官にはお伝え下さい」
「わかった」
あたしは店の空いたカウンター席で不審者二人を偵察していた。
「お連れのかたは帰りましたよ」
ミハルが小声で知らせてきた。
「サンドイッチっておいしいね」
「なら、今度、私が作ってあげますね」
会計を済ませた二人が店を出ていくのを見ながら、あたしは旅人風のやつを知っている気がした。
そのまま大通りから邸宅が建ち並ぶ住宅街に二人は向かって行く。シスターが案内しているようだ。
ここは……どういうことだ?
「賢者様も困ったものですね。いいでしょう、私が部下たちに説明しましょう」
邸宅の来客用の応接室で僕たちは軍服姿の中年女性と会った。
アデルの手渡した手紙を軍服姿の女性が読み終えるまて、黙って待っていた。
「お二人はまだ若いのに賢者様のお弟子さんなのですね。あなたはシスター?」
「はい、騎士団長様。アデルと申します」
「僕はタケルといいます」
「アデルさんとタケルさん、ようこそ騎士の街へ。私は騎士団総長のロミルダです」
「騎士団長様、依頼内容を私たちはお師匠様に説明されていないのですが……」
「アデルさん、私のことはロミルダで結構ですよ」
「はい、ロミルダ様」
「依頼の説明の前に、あなたたちの侵入に気づいた優秀な人がいたようです。ここに呼んでよろしいかしら?」
めんどうでも、大門へ事情を説明しに行ったほうがよかったかもしれない。私たちは街にいる間、ずっと尾行されていた。