アンデットな村人の僕 11
アデルが顔を赤らめて動揺している。
からかいがいのある子だわ。
「ぼうやはもうしばらくあずかるわよ。ゲートは改良されてるからいつでもいらっしゃい。ぼうや、帰るわよ」
「はい。じゃあアデル、またね」
二人はすぐに帰っていった。
お師匠様はタケルくんを魔導師にするつもりなのかしら。
アデルは仕事が忙しかったらしくて、新しい瞬間移動の魔法ゲートになってから10日後にルイーズさんの隠れ家にやってきた。
アデルが来たとき、僕はルイーズさんに書斎で講義を受けていた。
「あら、アデルじゃない?」
僕は目を閉じて、本の開いたページに手のひらをおいて集中していたのでアデルが来たことに気づかなかった。
「タケルくんは今、何をしてるんですか?」
「古代の魔法研究書を魔法で読解しているところなのよ。読解というよりも、本と戦っているところといったほうがいいかも」
本と戦うって……どういうこと?
「古代の魔法研究書は普通の本じゃなくて、本の型をした魔導師の分身みたいなもの。勝負に勝てば魔法の道具として仕えてくれるのよ」
「お師匠様、負けたらどうなるんですか?」
「ぼうやは負けないと思うけど、知識を奪う者に制裁を、って廃人になりかけた学者連中はいたわね。
でも、大丈夫。そうなったら治療するから」
「廃人ですか?」
タケルくんは普通の村人なのに、とんでもない試練をお師匠様から与えられていた。
「お師匠様、そんな危険です。やめさ……あっ!」
タケルくんが目を開いて、本から手を離した。
「ぼうやのほうが強かったみたいね」
本はテーブルから浮き上がり、青白い光を放つ。
まぶしくて目がくらんでいる間に変化が起きた。
タケルくんの背後に金髪の裸のかわいい少女が立っていて、背後から抱きついていた。
「なっ?」
「古代のエルフ族みたいね。アデル、あの子の耳は私たちと少しちがうでしょ?」
エルフの娘は見た目はタケルくんと同い年くらい。
試練を乗り越えたのはすごい。
でも、かわいい女の子に抱き着かれてるタケルくんを見ているとつい嫉妬してしまう。
「タケルくんが死んじゃったらどうするんですか!」
「ぼうやには魔力を制御する魔法具が必要になるわ。普通の道具なら壊れるけど、魔導書は仕える者に合わせて変化し続ける」
タケルくんは、こちらを見てすごく困っている。
「ぼうや、その魔導書の精霊の名前は?」
お師匠様がタケルくんに声をかける。
「名前を呼んで命令しなさい。ぼうやの命令ならなんでもしてくれるはずよ」
「ソレイユ、僕から離れて服を着てくれない?」
ちらっとお師匠様を魔導書の精霊ソレイユが険しい表情でにらみつけた気がしたけど、すぐに微笑に戻ると、タケルくんから離れて、その場でくるりと回った。