花嫁サークル!! 86
週末の休日は担当を終える寂しさに一日中卑猥な行為に明け暮れていたこともあり、彼にとってこの状況は新鮮なものだった。
「一日中ご奉仕しましょうか?」
少し頬を赤らめてルナが提案するも、悠はそれを丁重に断った。
「逆に何かしたいことはないの?」
彼にそう訊かれたルナの顔は、少し嬉しさを滲ませていた。
「……実は、行きたい場所があるんです」
「うん。何処?」
「すぐそこです」
「んじゃ、行こう」
腰を上げた悠は、のそのそと身支度を始めた。
悠の住むアパートから学校とは逆の方向へ進んでいく二人。
住宅街は一層閑散とし、蝉の鳴き声だけが暑さを物語っていた。
「こっちです」
微笑みながら先を促し、ゆっくりした歩幅で目的地へと向かっていた。
白いフリルのミニスカートをヒラヒラさせ、少しヒールのあるサンダルを鳴らすルナ。
彼女が誘導する道の先に、見覚えのあるマンションが見えてくる。
その外観に懐かしさを覚えながら、悠は彼女の後をついていった。
「ここです」
ルナが足を止めたのは、ある公園の前だった。
車止めをかわし、ルナは中へ進んでいく。
その後ろに続く悠は、懐かしさに胸が一杯だった。
まだ幼い頃にこの公園で遊んでいた記憶がセピア色のスライドで脳裏を過っていく。
入ってすぐにあるブランコ。
それの前にある柵を、悠は思わず指先で撫でていた。
――ゆっくん。
「え?」
微かな記憶の呼び声に、彼は顔を上げた。
そこに居たのは記憶の断片ではなく、高校生の佐弓ルナだ。
「どうかしましたか?」
彼の挙動にそう声をかけるルナに、悠は
「……ううん」
と首を横に振って、苦笑を浮かべていた。
日は高くなり、ご飯時なのか子供の姿すらない。
ただ、そこらの木々にとまった蝉の合唱が溢れかえっている。
「……で、着いたけど、何するの?」
悠は噛み締めていた思い出を胸に仕舞い直し、ルナに問いかける。
「帰りましょう」
「……は?」
呆気に取られる悠を他所に、ルナは笑顔を浮かべる。
「ここ、思い出の場所なんです」
「ここが?」
「はいっ。なので、一度悠様に見てもらいたかったんです」
相変わらずにこにこと笑ったまま、ルナはそう言った。
「どんな思い出?」
「それは……言えません」
本当は言いたくて仕方がない。
でも、それが出来ないルナ。
「なんで?」
「サークルの決まりだから、です」
「え……」
言葉を失う悠。
この場所に、ルナが悠を好きになった理由がある。
しかしそこは、小学校以来訪れていない場所だ。
中学も高校も反対方向で、遊び場は駅周辺へと変わっている。
そんな場所にもかかわらず、ルナが悠を想い始めた何かがあるというのだから。
複雑な顔で悠を見ていたルナは、何かを誤魔化すように大きく伸び上がった。