花嫁サークル!! 1
鞄を携えながら眠気眼を擦る男、久遠悠。
彼は何の取り柄もない、ごく普通の高校生である。
親の都合で独り暮らしを余儀なくされている点を除いては。
彼は、放課後に向かい始めた校内を後目に昇降口へと進んでいた。
下駄箱の扉を開きながら、間の抜けた欠伸を一つ吐き出す。
「ん? なんだ??」
靴の上に、可愛らしい封筒が一つ置かれていた。
「この御時世にラブレターか?」
手にとって裏表をまじまじと見ながら独りごちる。
取り敢えず開けるか、と彼は人目も気にせず封を切った。
「『花嫁選考サークル』の承認を……? なんだこれ?」
彼は首をかしげつつも、暇なのもあり、紙に記された教室に行くことにした。
────────
2−D。
悠の教室、2−Cの隣の教室だ。
彼はUターンしてきた形になる。
妙に緊張しているのか、ノックのために上げた右手は微かに震えていた。
コンコンッ……
という音のあと、教室内が心持ち騒がしくなり、やがて、
「どうぞっ」
という女の声が聞こえてきた。
彼は不思議に思いながらも、教室のドアを開いた。
中には女の子が二人いた。
彼は記憶を呼び起こし、その人物が佐弓ルナと山谷愛だと認識する。
「ほ、ホントに来た……」
「どうしよう……」
二人はヒソヒソと言葉を交わし合った後、改まって悠の方へ向き直る。
「こ、こんにちはっ」
言葉頭をつっかえさせながらも、ルナが彼に呼びかけた。
「あ? あぁ……」
等と口ごもりながら悠は適当に返事をした。
「あ、あの……」
次は愛が彼とルナとに目くばせしながら口を開けた。
ルナと愛は暫く見つめ合った後、悠の方へ歩み寄る。
そして、
「花嫁選考サークルの承認をお願いします!!」
と、彼に詰め寄ったのだった。
「いや、別にいいけど……ってか花嫁選考サークルって何なの?」
「それは……ですね……」
愛は悠を上目遣いに見上げた後、顔を赤らめて視線を外した。
花嫁選考サークル。
花嫁選考サークルとは、久遠悠ファンクラブから派生したサークルである。
久遠悠の花嫁になることを目標とし、また、それを目指す者が集う団体を指す。
久遠悠が花嫁、又は恋人とする人物を選んだ時点でこのサークルは解散するものとする。
活動内容は、久遠悠の好感を得るためのものであれば何でもよい。
ただし、迷惑をかけてはいけない。
参加者は久遠悠に関する情報を共有し、新たな情報は【久遠悠様ファイル】に保存することを義務付ける。
とまぁ、大まかにはこのようなものであった。
「え? 俺にファンクラブなんてあったの?」
「「はいっ」」
「つか、【久遠悠様ファイル】ってなんだよ……」