花嫁サークル!! 67
彼女は数分の間、その変質者に追いかけ回されたらしい。
人気のある場所へ抜けたときには、既に男は退散していたと言う。
以来まどかは、男性器に対する恐怖を埋め込まれたのだ。
男性器のみというのが不幸中の幸いかもしれない。
交遊や恋愛には支障はないが、恋愛に関しては、性行為に及べないという状態だ。
そうなるとわかってからの彼女は、恋愛に対して消極的という弊害を患ってしまったのである。
「……ってわけだ」
「うそ……だって……、じゃあ、どうしてサークルに……?」
もっともな疑問である。
紗耶と違って、体を重ねることにすら拒絶を現すまどかが、どうして花嫁選考サークルに所属したのか……。
「お前に負けたくないんだと。……いや、羨ましいのかもな」
「うら、やましい?」
「そう。好きな人に好きだとアピールできるお前が」
まどかの受け売りである。
ただ、悠が断言しなかったのは、まどかのプライドを配慮してのことだろう。
しかし愛には大きな影響を与えていた。
互いをライバル視して、敵対心を剥き出していた相手が、実は自分を羨ましく思っている。
愛は、それにを知って思い上がるような性格ではない。
むしろまどかを自分と同じ条件にまで持ってきて、競い合いたいと思うタイプだ。
この場合、まどかのトラウマを消し去ることが、愛と同じラインに立たせることに等しい。
愛の思考回路はまどかの脱トラウマへとシフトチェンジを始めた。
「やっべ。遅れるぞっ」
「あ、うん……」
曖昧な返事を返して、身支度を始める愛。
彼女の中でまどかの見方が変わろうとしている。
敵対するライバルではなく、高め合いたいと思える存在へと。
────────
昼休み。
教師に頼まれて書類の山を職員室に運び終えた悠は、昼食の弁当を取りに行くため教室へと歩いていた。
ふと廊下から窓の外に目を遣ると、まどかが一人の男と対峙しているのが見える。
丁度校舎裏にあたる位置で、彼の立っている場所からしか見つけられない穴場だ。
(………………)
花嫁選考サークルに所属している以上、気にならないはずがない。
悠は踵を返し、昇降口へ急いだ。
「だから……」
悠が校舎裏に近づくと、微かにまどかの声が聞こえてきた。
「……好きな人がいるの」
「どーしても俺じゃダメ?」
しつこく食い下がる男子生徒。
気持ちはわからなくもないが、少し見苦しい。
「あんたが私と付き合いたいように、私はその人と付き合いたいの……わからない?」
男子生徒は何か言っていたが、やがて立ち去る足音が響いてきた。
物陰に隠れてそれを見送った悠は、
「小栗っ」
と、その場を離れようとするまどかを足止めする。
「え? まさか……聞いてたの?」
思わぬ悠の登場に、彼女はあからさまに狼狽えていた。