花嫁サークル!! 59
まどかの目的は理解しているものの、心のどこかでは期待していた。
「入るぞー」
「OK〜」
磨りガラス越しに動く黒い影。
そう、肌色ではなく黒色だ。
それには気付かない悠は、浴室を開いたのだった。
「じゃーんっ」
と自分の体を誇示する彼女は、スクール水着を着ていた。
スク水は彼の萌えポイントの一つで、そういうことは一応勉強しているらしい。
「はい、座って座って」
固まっている悠に気恥ずかしさを覚えたまどかは、少し顔を赤くしながら彼の手を引き、台座に座らせた。
彼の背中を泡立ったスポンジが滑っていく。
「着痩せするタイプ?」
意外に広い悠の背中に、まどかはスポンジを優しく擦り付ける。
「さぁ……初めて言われたなぁ」
中学の時にテニス部とサッカー部を兼部していた彼は、上半身下半身ともにそこそこ引き締まった体つきをしていた。
「ふーん……」
そう声を洩らし、背中を流すまどか。
彼女は悠の背後にいるため、せっかくのスクール水着姿も彼からは全く見えない。
壁に掛かった鏡も水蒸気に曇ってしまい、黒い影がちらちらと蠢いているだけだ。
だがしかし、後ろから回される彼女の手が胸元を撫で上げ、その行為は確実に彼を昂らせていった。
特に、胸板をスポンジが擦る動きに合わせてまどかの柔らかい双丘が押し潰される感触が、えも言われぬ快感を与えていた。
彼女は前を見ないように、悠の首筋の辺りに頬を密着させている。
無論、スポンジを動かすその範囲は、必然的に手探りになった。
「きゃぁっ!」
腹の辺りに腕を回していたまどかが、突然悲鳴を上げた。
彼女の手の甲に、タオルを押し上げている彼の愚息が触れてしまったのだ。
退けられた彼女の手は硬直し、震えている。
手だけではない。
彼の首筋からは、ガタガタと震えるまどかの様子が伝わってくる。
「小栗……?」
ただならないまどかの様子に困惑する悠。
彼女は明らかに恐怖を現している。
思えば今朝、愛の奉仕から目を逸らしていた。
それは恥ずかしさからではなく、何かに恐怖を抱いていたからではないのか。
彼はそう思い始めた。
「……怖いのか?」
悠の問い掛けに何も返さないまどか。
歯がカチカチと音を立て、上手く言葉を発することができない。
「無理しなくていいんだぞ?」
「う、ううん……ごめん……」
少し落ち着きを取り戻した彼女は、なんとか声を絞り出した。
落としてしまったスポンジを探そうと、ゆっくり手を動かそうとする。
それを彼は制止した。
「怖いんだろ?アレが」
「…………」
しばらく無言だったまどかは、静かに自身の過去を語り始めた。
それはまだ若き日の少女の脳裏に深く、卑劣に刻み込まれた出来事。
今なお彼女を苦しめる、衝撃的な記憶……。
「でも、愛には負けたくない」
一通り話した彼女は、静かな闘志を露にさせた。