花嫁サークル!! 5
「悠……様……」
彼はそのフレーズを耳にして、漸く昨日のことを思い出した。
愛の言付け、それは、アパート入り口のポストに合鍵を入れておいて欲しい、というものだ。
それを彼はすっかり忘れてしまっていたのだ。
そして、目前の女の子を見て、おそらくこの子がそれを使って入ってくる手筈になっていたのだろう。
しかし何のために……と、彼は活動し始めた頭で考え込もうとした。
だがそれは
「あ、あの……」
と口を開いた彼女に遮られた。
「あぁ、ごめんごめん。入る?」
流れ込んできた冷気に悠はそう提案すると、彼女はコクンと首を縦に振った。
「朝ごはん作りますね」
部屋に入るなり、彼女はキッチンに立った。
鞄とは別の手提げ袋から薄ピンクの可愛らしいエプロンを取り出し、着用する。
「いやいや、いいよ別に」
と悠は慌てた様子で冷蔵庫を開けようとしている彼女を制止した。
「迷惑ですか??」
悲しげな声で聞かれた彼は、思わず
「い、いえ。お願いします」
と言っていた。
「はいっ!」
と明るい声が返ってきて、自然と微笑みを溢す悠。
フラリとパソコンの前に戻ると、腰を下ろし、マウスを握った。
電源を戻したパソコンの画面には、昨日開いたままにしていた花嫁選考サークルメンバーページを表示している。
彼は改めて昨日の事が現実に起こったことなんだと確信した。
ページをスクロールしていくと、薄い茶色のボブカットで襟足を軽く外へ跳ねさせるようにパーマをあてた女の子が姿を現した。
「やのみすず……」
「何ですか?」
「ううん、何でもないよ」
悠は誤魔化して再びパソコンに目を戻した。
事実、キッチンに立っている女の子の名前を知りたかっただけなのだ。
矢野美鈴、1年生。
表示されている画面によると、どうやら美術部に所属しているらしい。
「できました!」
美鈴が嬉しそうに朝食を運んでくる。
彼はパソコンを畳んでそれを迎える準備を整えた。
テーブルには芳ばしい匂いを漂わせる目玉焼きとサラダが置かれた。
「あれ? 矢野ちゃんのは?」
「私は食べてきたんでっ」
と、美鈴は悠の横に座る。
「できれば、美鈴って呼んでくださいっ」
彼女は顔をほのかに赤らめ、悠をチラリと見遣った。
「あ、あぁ……」
と口ごもりながら、彼は箸を手にとって
「いただきます」
とそれらを口に運ぶ。
「ど、どうですか……?」
「うん、美味しいよ」
美鈴の心配そうな顔が途端に綻んだ。
事実、とても美味しいというのは箸の動きが物語っている。
「じゃあ、そろそろ……」
皿のものが半分くらいになった頃、美鈴が頬を赤らめながら彼の股間に手を置いた。