花嫁サークル!! 35
「……変」
ボーッと空を見ていた紗耶が、小さな声で呟く。
「何が?」
悠は首を傾げながら詳細を求めた。
彼女はフェンスの向こうを呆然と眺めながら
「なんか……変」
と繰り返す。
少しだけ振り向き加減で悠の方に視線を流した。
「だから、何が?」
「………………どうしてスイッチ、入れないの?」
紗耶の顔が少し赤くなった。
まるで、それをして欲しいかのように。
「久遠くんはいろんなプレイが好きな……変態のハズなのに」
随分な言われようである。
しかしそれは、花嫁選考サークルのデータから得た情報を元に構築した、紗耶の中の悠の本性なのである。
不快な風がそっと吹き抜けた。
「紗耶は、望んでやってるのか?」
「………………」
「嫌なら付き合う必要ないよ」
「………………」
悠の言葉に何も返さず、ただ視線を地に這わせる紗耶。
「紗耶?」
沈黙に耐えかねた悠は、彼女の返答を求めて言葉を投げ掛ける。
しかし、待望も虚しく予令が鳴り響いたのだった。
────────
夜。
紗耶と美鈴を見送った悠は、徐にパソコンを立ち上げた。
メンバー表にカーソルをあて、開かれたページをスクロールしていく。
(おいおい……)
見覚えのある名前をいくつか流し読みながら、下の方に紗耶を発見した。
悠はそこをクリックした。
食い入るように目を通してみるが、所属動機に繋がるような書き込みは見受けられない。
「ん〜……」
ガチャ……
一人頭を捻る悠の思考を、ドアの開く音が停止させる。
「……どうした?」
その場に立っていたのは、紗耶だった。
「…………帰りたくない」
小さい声だったが、彼女は確かにそう言った。
どこかしら憂いの影が見え隠れしている。
「そっか」
紗耶の様子を感じ取ったのか、悠はそれ以上言及しなかった。
静かに歩み寄った紗耶は、静かにその場へ座り込む。
悠はパソコンを閉じると、パックのお茶を手に取って喉を鳴らした。
時刻は22時になろうとしている。
「腹、減らないか?」
もちろん、彼らの夕食は済んでいる。
しかし、その後のお楽しみで悠は二人を相手に二発も達した。
小腹が空いてもおかしくはない。
悠の呼び掛けに紗耶は静かに頷いていた。
夜の川辺は不思議な空間を醸し出していた。
ある時は癒しの音色を奏で、ある時は恐怖を誘う。
月明かりは雲の遮られ、点在する街頭がぼんやりと地面を照らしていた。
「……あのさ」
唐突に口を開いたのは紗耶だった。
「寂しくない?」
「え、何が?」
缶コーヒーを傾けた悠は、質問の詳細を求める。
「……帰って誰もいないって」
と紗耶は補足した。
「もうとっくに慣れたよ」
悠は紗耶に笑いながら言い、
「それに、孤独なわけじゃないからさ」
と付け加える。