花嫁サークル!! 240
昼休み。
屋上では相変わらずのアピール合戦が繰り広げられている。
それを知っていながら、2‐Dにはルナの姿があった。
今日はフライイングした昼食ではなく、然るべき時間に弁当箱を広げている。
「ルナちゃんは行かないの?」
いつも真っ先に教室を出て行くルナ。
彼女の落ち着き払った様子に、理央は訊かずにはいられなかった。
「今日は担当日だから。強者の情けよ」
「強者?」
「担当日は一時的にゆっくんの彼女になれる日……皆そう捉えてる」
彼女の視線は、そわそわしている愛に向けられた。
「ささやかな優越感……でも、担当日だからといってアピールしちゃいけない訳じゃない。そんなルールはないんだから、行きたいなら行っていいのよ?」
その日、久し振りに部活がオフの理央。
担当日でなくても昼休みのアピールに参加できないことが多い彼女は、屋上へ向かうつもりでいた。
しかし、気になることがあって動けない。
「愛さんも優越感に浸っているのかな……?」
「どうかな」
とは言いつつも、ルナにはその理由がわかっている。
その辺りは流石というところだろうか。
愛が動かないのは理央がここに居るためだ。
演劇部の活動がないこの日に理央が担当日を持ち、愛はそれを知っている。
故に、教室から姿が消えれば向かった場所には容易く検討がつけられる。
その場合、愛は足早に階段を駆け上がるだろう。
しかし理央は教室に居て、今のところ動く気配がない。
真っ向勝負中の愛は、理央を残して屋上へ向かうことに敗北感を抱くだろう。
余裕の理央と追う自分、という画を頭に描きながら。
それに、抜け駆けは彼女の性格が許さない。
同じコートで打ち合うからこそ、手にした勝利に意味があるのだ。
「愛さんは……」
「ん?」
「愛さんは……私のこと……嫌い……なんだよね……」
「どうして?」
泣きそうな顔の理央に、ルナは柔らかな視線を向ける。
「だって……」
「本人に訊いてみたら?」
「えぇっ!?」
ムリムリムリ、と手をブンブン振って訴える理央。
「…………愛っ! ちょっといいっ?」
「ちょっ、ルナちゃんっ……」
大きな声を張り上げたルナに反して、理央は小さく非難を訴えた。
一方の愛は席を立ち、二人に歩み寄る。
審判の呼び掛けを無視することはできない。
「……なに?」
理央を一瞥した彼女はルナに問い掛ける。
「理央がね……」
そう言いながら携帯を取り出したルナは、何の躊躇いもなくそれに目を走らせる。
「ごめーん。ゆっくんに呼ばれちゃったっ。エヘッ」
「なに? その初見せなキャラ」
わかり易いルナの嘘に、愛はすかさずツッコミを入れる。
今彼は、頭の天辺からから足指の先まで熱烈なアピールを受けているはずだ。
無論、手など言うまでもなく、携帯を触れない状態であることは簡単に想像がつく。