花嫁サークル!! 23
訊きたいことはただの一つだけだった。
しかし彼には、それを聞くのがとてつもなく恐ろしい事なのだ。
過去の思い出がフラッシュバックされ、川の水面に輝く光の中にその憧憬を映し出す。
しかしそれは、水の流れと共に遠くへ消えていったはずの切なさを伴っていた。
「そっか……」
言及する様子もなく、夕貴は俯いたままだった。
彼女には、悠の言いたいことが解っていた。
その上で、自分の身勝手さを呪っていた。
「じゃあ……先に行くね」
彼女は小さな紙袋を悠に押し付けると、駆け出した。
それを彼は、無言で見送っていた。
彼にとって、時間が経つのはとても早かった。
暗い部屋の中で電気も点けず、悠は暗闇の向こうに何かを見ていた。
「何してんの?!」
ガチャッとドアが開いてから、そんな声が聞こえた。
夕貴である。
部活を終えてから彼女が訪ねるまで、時間は進んでいたのだ。
「べつに」
素っ気なく言う彼は、やはり彼女を見ようとはしなかった。
耐えきれなくなったのは夕貴の方だ。
「訊きたいことが……あるんじゃない?」
そう口走っていた。
彼は暫く黙っていたが、意を決したのかのように、夕貴の方へ向き直った。
「どうしてお前がいるんだ?」
それは、何故ここにいるのかという意味ではない。
何故、花嫁選考サークルに所属しているのか、ということだ。
夕貴にはそこまで理解できている。
何故それを訊かれるのかも知っている。
「悠が……好きだからだよ?」
「じゃあ」
彼は大きく息を吸い、吐き出した。
「じゃあ、どうしてフったんだ」
確かに空気が変わった。
薄暗い部屋の中でも解るほどに痛い視線が、容赦なく夕貴に突き刺さる。
彼女は瞳を反らさずにはいられなかった。
それは4年前、彼らが中学2年生のときのこと。
例の川原にて想いを吐き出した悠だったが、見事に玉砕していた。
その時の思い出が再び彼を苦しめ始めていた。
夕貴がドアの向こうに立っていたあの日から……。
「本当は……知りたくなかった……」
夕貴がポツポツと言葉を紡ぐ。
「あの夏は、私のすべてだった。
大会への参加を師範が認めてくれて……私、必死だったの」
負けず嫌い。
彼女は性格はそれにあてはまる。
「そんな時に付き合っちゃったら……集中できないと思った」
だって……と彼女は一度そこで区切った。
カーテンを閉められていない窓から、道を照らす街灯の光が洩れ入って室内を青白い空間にしている。
彼女が悠を見上げた顔は、とても切なく、思い詰めていた。
「だって、悠が好きだったから……
練習なんてほったらかして、ずっと一緒にいたくなると思ったから……」
夕貴の目尻がキラリと輝き、それはゆっくりと頬に筋を築いていく。