花嫁サークル!! 206
開け放った窓枠に肘を付き、色付き始めた葉っぱをつまらなそうに見詰めている花音。
彼女のツインテールがふわっと翻る。
「まーだー?」
視線を向けた先にいる悠は、相変わらず難しい顔をしていた。
いくら考えても方程式の解がでない。
その様子が表情から安易に読み取れる。
「今日が勝負なんだけどなぁ」
腕に顎をうずめ、彼女はまた外を見遣った。
負の雰囲気を漂わせているのは、この場所にいるからだろうか。
図書室の入り口に向かい合ったまま、彼は壁に背を預けた。
「折角時間が作れたのに……」
はぁ、と溜め息をつく花音。
追い討ちをかけられる悠。
静かに流れていく時間……。
「あっ」
何か思い出したのか、悠は小さく声を漏らした。
前に花音が吐いた一言、てんてこ舞い。
それは、先程彼女が溜め息混じりに呟いた台詞と相まって真実味を帯びさせる。
生徒会長の花音は、夏休みから忙しそうであった。
そしててんてこ舞いになったのは悠と結衣のお陰だと、以前言っていた。
ここで一つの仮説が成り立つ。
彼らのお陰で花音は生徒会長になり、忙しい日々を過ごしていると。
それを未知数に代入させる。
昨年の秋口、図書室の前の廊下、漫画の台詞、生徒会長になった、イコール恋。
生徒会選挙は二学期の終業式に行われる。
故に、立候補を募り始めるのは10月からだ。
秋口というには遅いが、目を瞑ることにしよう。
花音が生徒会長への立候補を思い悩んでいたのであれば、そのこと考える場所が図書室の前の廊下であってもおかしくはない。
漫画の台詞。
それが何かかしらの形で悠から花音の耳に入り、立候補を決断させたとしたら……。
「わかりました」
ダメ元だ。
「俺が花音先輩を生徒会長に立候補させるきっかけを作ったんですね……?」
かなり間が端折られている。
しかし花音うんうんと表情を明るくさせ、先を促した。
「で……好きになってくれた、と……?」
「うん、うんうんっ! オッケーオッケーッ」
花音は悠の胸元に飛び込み、しがみついた。
「あのねあのねっ」
嬉しそうに語り始める花音。
「悠様はあそこにいたんだよっ」
彼女は開け放った窓の丁度真下を指差した。
「私、ずーっと思ってたの」
窓枠に歩み寄った花音は、再び頬杖をついた。
「皆が伸び伸びと過ごせたら、きっと学力は上がるって」
校則とは統制を敷くためにある。
集団行動の意識、自校の学生である自覚、道徳を重んじる姿勢。
しかしそれが先立って、生徒のやる気を削ぐ結果となっていたとしたら……。
もちろん、自由とは拘束があって実感できるもので、ある程度の束縛は必要だ。
花音が発表した声明は、校則緩和と学力向上。
交換条件として全統模試への参入を打ち出した。
それは生徒を深く納得させる結果となる。
彼女が生徒会長になっていることが何よりの証拠だ。