花嫁サークル!! 179
高揚のせいか、紗耶は多少饒舌に思われる。
達さないようにするという彼女は、その快楽より悶絶した状況を欲していることを暗に窺わせていた。
「紗耶はローターが好きなんだな」
そう言われ、紗耶は顔を赤くする。
「……あなたが動かすから意味があるの」
「じゃあ、動かさないのも俺の自由なんじゃないか?」
悠の言葉に彼女は視線を逸らした。
「動いてると……そばに感じれるから……」
悠の胸が高鳴る。
彼女にとって、この卑猥な玩具にはとんでもない意味があるらしい。
実物を眼中におさめながらも、玩具の振動を求める紗耶。
本人よりも刺激の方が実感を得られるのだろうか。
「おかしいでしょ?」
自嘲した紗耶は悲しげに視線を這わせる。
「体でしか感じないなんて……」
ミステリアス。
彼女の言動には何かが隠されている。
同じクールさであっても、明快な結衣の方が聞く側にも優しい。
ちょこちょこヒントを出していく紗耶の発言は、おそらく本人も気付かないうちにそうなってしまっているのだろう。
まるで、素直に晒してしまうことを避けるかのように。
その点に於いてはルナと似ているのだろう。
「ちょっ、やめ……」
次の瞬間、紗耶は抱き寄せられていた。
大通りと直角に交わる路地のそこで、人目も憚らず包み込まれている。
「これでも感じない?」
何かから掬い上げられたような感じがする。
冷たい水の自分が、暖かい手のひらで揺れている。
紗耶は顔を真っ赤にして、それでも、拒絶を止めた。
「……気持ちよくない」
自然と腕を回してしまう紗耶。
その存在を確かめるように。
「でも……感じる。久遠くん……」
喧騒が横を飛び交う中、二人はしばらくそうしていた。
「初めて」
机に視線を注ぎながら、紗耶は頬杖をついた。
「私を知ろうなんて人」
はぁっと吐かれた溜め息はどこか色っぽい。
それが拡散していく悠の部屋には、彼女の声が響き続ける。
「脱げば抱いて、好きだと言えば抱いて、抱いて抱いて……それでいいんじゃない?」
「……本気で言ってるのか?」
「当たり前よ。好きな人に抱かれたいと思うのは普通じゃない?」
確かにそうかもしれない。
しかし紗耶からは、クールな性格以上の冷たさを感じる。
「……相手の気持ちは?」
「………………」
ブラウスを剥ぎ、冷たい視線を悠に注ぐ紗耶。
「男は体で繋ぎ止められる」
「でも、それには限界があった」
チュニックにかかった手を掴む悠。
現にこの春、彼女は恋人と別れている。
そんなことを、紗耶は何度繰り返してきたのだろう……。
「今までの男はそうかもしれないけど、俺は違う」
掴まれた手を振りほどくも、紗耶はそれを胸元に寄せる。
「そんな機械的な感情だけで、抱くことなんてできない」
「……よく言うわ」