花嫁サークル!! 178
寂しい、苦しい、悲しい……あるいは、怒り、憎しみ、不満。
そして、光は希望を想像させる正のイメージ。
それが暗闇に射したのだから、負の感情は正の感情に転換したに違いない。
その光をもたらしたのが悠であり、その時に紗耶は恋に落ちたことになる。
そこに考えが至っても、抽象の域を越えられなかった。
「散歩、好き?」
「えっ?」
無言で考え込んでいた彼に、紗耶はやはり外を見たまま尋ねる。
「ちょっと……歩かない?」
小さめの肩掛け鞄からそれを取り出し、目立たないように差し出す紗耶。
「ね?」
漸く悠の方に向けられたその瞳は、頬杖の上で傾けられた妖艶な表情の中で、誘うように揺れていた。
平日の繁華街は、休日よりも随分歩きやすい。
しかし、近所で遊べる場所と言えばこの辺りしかなく、昼下がりのこの時間帯には、夏休みを持て余す人影が多かった。
そんな中をあてもなく歩いていく悠と紗耶。
初めて訪れたかのように、その歩調は迷惑なほどスローペースである。
彼の左腕には紗耶の右腕が絡み付き、寄り添うように左手が添えられている。
恋人のように密着する彼らには、そうしなければならない訳があった。
「っ……っん……」
紗耶の左手が、悠のシャツの袖に皺を作る。
控え目に洩れ出たその声は艶かしさを熱い吐息に滲ませていた。
「く……ぁ……」
数歩進むと紗耶の歩調が縺れたように乱れ、引っ張られるように悠の足も小幅を強要される。
五月蝿い喧騒の中、彼女を襲うそれの音は中々耳に届かない。
しかし、確かに振動していることは紗耶の表情から読み取れた。
肌に密着したデニムのミニスカート、淡いオレンジのチュニックに白い半袖の涼しげなブラウスを羽織っている紗耶。
お洒落なサンダルのヒールには少し高さがあり、足首にもキラキラした飾りが見受けられる。
クールながらも目を引く彼女の姿は至って普通。
問題はショーツの中に隠されていて、陰核に当てられたローターが悠の右手で強弱を操られていた。
「……んんっ……だめっ」
彼女は悠を引きながら主要な通りを横に逸れ、自販機の陰に身を隠した。
更に強度を上げる悠。
「んんんっっ……んぅっ!」
前屈みになった瞬間、髪が不規則に揺れ乱れた。
膝を少し中央に寄せ、ヒールがカツカツッと小さく、細かく地面を踏み鳴らす。
「はっ……はぁぁ……」
一瞬詰まった呼吸を再開させながら、紗耶は背筋を伸ばした。
「どうして……?」
責めるような一言。
悠はそれを浴びせられ、紗耶のことがますますわからなくなっていく。
「どうして……止めるの……?」
悠は自分が自販機の前で立ち尽くしている違和感に気付き、コーヒーを一本買うことでその理由をこじつけた。
「……イったから?」
図星だ。
プルタブを起こした彼は、紗耶の推測を肯定して、缶に口を付ける。
「じゃあ、次は……我慢するから……」