花嫁サークル!! 172
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2日後。
サークルの活動は再開されていたものの、悠の意思によって以前のようにメンバーが詰めかけることはなかった。
夏休みの間は、その方が情報収集しやすいからだという。
そして今、茜に染まる室内で彼は考え事をしていた。
今後のことについて。
「遅くなって申し訳ありません」
その静かな空間に、彼女は現れた。
違う学校に通っているため、夏休みの間になるべく多くのことを知るべきだと、今更ながら思い至ったのである。
それに、純華にとっても学校が違うというのは大きなハンディであろう。
「念入りに準備をしましたら、こんな時間になってしまいまして……」
何の準備だろう。
部活があるから夕刻に訪問すると聞いていた悠は、確かに桜女附属の制服に身を包んだ彼女を前に、そんな疑問を抱いていた。
「それで……お話というのは何なのです?」
膝を折った彼女の動作は柔らかくも堅い気品を感じさせる。
しかし、仄かに赤い頬でニコリと悠に笑いかけるその仕草は培われたものではなく、本来の可愛らしさが垣間見えていた。
「うん……純華が俺を、その……好きになってくれたのは、いつ、何処で?」
「中学校3年生の春、テニスコートで……ですわ」
その時のことを思い出したのか、トキメキを抑えるように胸元に手を当てる純華。
悠たちの通っていた中学校では、毎年春に球技大会が行われていた。
涼子の話と合致している。
大きな影響を与えた……それはつまり……。
「つーことは、やっぱ球技大会の時にテニスを教えたことくらいしか思い当たらないな……純華はその時に好きになってくれたのか?」
「はい」
ニコっと笑って傾けた顔は、さっきよりも赤く染まっていた。
意外にアッサリとわかった純華の恋愛事情。
悠の方が拍子抜けしてしまう。
しかし、その裏に涼子の大ヒントがあったことは否めない。
「私は、叱られたことがありませんでした。あの日まで……」
「えっ?!」
驚く悠を置いて、純華の告白はつらつらと続く。
「家では可愛がっていただき、外では皆さん、丁寧に接してくださいました」
腫れ物を扱うように……と呟いた彼女の顔には、どこか憂いを漂わせていた。
「しかしながら、久遠さんは普通のクラスメイトとして接してくださいましたね……」
彼はあの頃、純華が筋金入りのお嬢様だとは思っていなかった。
口調が堅くて、妙に落ち着いた奴だと思っていたのだ。
「初めは、失礼ながら不躾な方だと思ってしまったのですが、球技大会でペアを組んでくださるようになったあの日から、私は叱られることを知りました」
よくよく聞いてみると、血の気が引いていくような内容であった。