花嫁サークル!! 156
室内に響く音。
誰もが目を疑う。
彼の頬を張ったのは、他ならぬあの理央なのだ。
「何が不安なの? 何があなたをそうさせたの? 教えて、悠。理央が魔法をかけてあげるから……」
そっと彼女は悠を抱き留めた。
しっかりと腕を回して、確かな温もりで悠を包み込んでいく。
「ほら……あなたの温もりは私を落ち着かせてくれる。ドジでマヌケで直ぐにテンパって、悲観で妄想癖で泣き虫で……そんな私に、悠は魔法をかけてくれる。ステージよりもずっと温かい魔法を……」
理央の肩越しに見えるのは、小春にしがみついた里奈の姿だった。
涙を浮かべて、それでも心配そうに悠たちの様子を窺っている。
裏切りにあって悲しみを滲ませつつも、その視線には確かな愛情を感じられた。
「悠は優しい……私は知ってる。ほら、目を閉じて? 魔法をかけてあげるから。私に悠の不安を聞かせて……」
諭すようなその言葉は、綺麗な声と共に耳へ流れる。
導かれるように目を閉じた悠の唇に、理央の唇が触れた。
二人だけの呼吸。
その空間だけがくっきりと切り取られたように穏やかな空気に包まれていく。
その温かさは辺りを満たし、静かに拡散していく。
理央の魔法によって。
「……大丈夫?」
「あぁ……ごめん……」
「相手が違うよ? 悠」
見せつけられた二人の世界。
そこには、もしかしたら魔法が存在するのかもしれない。
誰もが思っていた。
確かに理央となら悠は幸せになれるだろう、と。
恐怖を感じた悠も、今目の前にいる悠も、自分が好きなったあの時の悠も、全部が一人の久遠悠。
彼を受け止められたのは、この場に一人しかいないのだから。
「ごめん、里奈……。結衣も、すまなかった……」
微動だにしない二人。
さっきは感じなかった温かさを持つ言葉の響きに、驚きが隠せなかった。
「……ルナ、話がある」
確かな意思をもって悠は玄関へ向かう。
と言っても、すぐそこなのだが。
「はい」
返事を返したルナも、確かな覚悟をもって彼を追った。
「あとでちゃんと謝るから、ちょっと待っててくれ」
そう言い残して、彼らは出ていった。
茜色の空のもと、ゆっくりした歩調で歩いていく二人。
目的地はない。
しかし足は何かに引かれるようにそこへ向かっていた。
「……私を責めてください。皆は悪くありません」
「ん?」
彼はまだ何も話していないのに、ルナは小さな声でそう呟いた。
「私が理央を誘ったんです……私だけが……」
「そっか……ありがとう」
「……え?」
意外な言葉にルナは動揺する。
そんな台詞は予期していなかったからだ。
「いや、ホントは凄く腹立たしい。だから、ルナと同じことをしてみた」
「同じこと……ですか?」
それは彼女が初めて見せた顔だった。