花嫁サークル!! 152
赤い頬の花音は窓際へ歩み寄り、そっと隔たりを引き払った。
「私の……思い出の場所」
生温い風が吹き込み、彼女の髪を揺らす。
「私ね? 元気が取り柄なんだ」
静かに語り始める花音。
悠は何も言えないままに、伏し目がちの彼女を視界に捕らえ続けていた。
「だから……皆の前では笑顔を心がけてるの」
深く汲めば、嫌でも笑っているということだ。
そしてそのことを悠に告白したということは、彼には知っていて欲しいということ。
本当の自分を……。
しかし、彼女には結衣がいる。
結衣は物事をハッキリ伝える。
意図も簡単に負の感情を押し込める花音を見つけ出し、
「『なら、私には見せたらいい。全然迷惑じゃないから』って言ってくれた」
らしい。
彼女は辛いときには人気のないこの場所に来て、結衣は何も聞かずに花音から話を切り出すまで静かに本を読んでいたという。
だからここは、花音の負の思い出が詰まった場所なのだ。
しかし、その場所は180度違った意味を持つようになる。
そう、悠の存在がそれをなし得たのだ。
「ってわけ」
花音は伏せていた顔を上げ、悠の方へ顔を向けた。
弾けたような笑顔と共に。
「今の私がいるのは、二人のおかげ。てんてこ舞いだけどさ」
「てんてこ舞い?」
つまり忙しいということだ。
今の彼女になって忙しくなったというのは、どういう意味なのだろう。
悠にはよくわからなかった。
「……久遠くんは遠回りしすぎだよ」
さっきと同じことを呟く花音。
「言えないのは“何故か”だけなんだから」
彼女はゆっくりと彼に歩み寄りながら続ける。
「いつ、どこで……それくらいは、ストレートに訊いて欲しいな。早くちゃんと候補になりたいからさ……」
「あぁ、なるほど……」
感心した様子で声を洩らす悠。
それを知ることは、大きな手掛かりを得ることになる。
「それからでも遅くないでしょ? 全部を知ろうとするのは」
でも、と続きを逆接で繋いだ花音は、紅潮した顔で彼を見上げた。
「でも、悠様のそういうとこ……好き……」
しなやかな指先が彼を誘惑する。
焦れったく胸元を滑り、ベルトを越え、ズボンの上からオトコに触れた。
「生徒会長を跪かせるのって……興奮しますか?」
フレンチキスを交わした後、上気した顔で尋ねる花音。
「そ、そうですね……多少は……」
その口調に、彼女は不満そうに唇を重ねる。
「この時期に図書室の前なんて誰も来ません……。意地悪、しないでください……」
虐げを誘う切なげな瞳を向けながら、彼女は膝を折った。
悠が多少なりとも興奮すると言ったシチュエーション。
それは花音でしか叶えられない。
しかもここは学校。
生徒会長という肩書きを一層引き立てる。