花嫁サークル!! 16
どこかしら重い空気を感じ取った夕貴は、どうすべきかを模索しながら、それでも平生を装っている。
その辺りは、流石剣道有段者と言ったところか。
「いつからいた?」
「ん?」
「いつからドアの前に突っ立ってたんだ、って訊いてんだっ」
「朝から、だけど……?」
はぁ、と重い息が悠の口から出る。
「お前、ポストに鍵があったらどうしてたんだ?」
「それは……」
夕貴に動揺の色が見えた。
昨日の朝、里奈がしたことをするつもりであったことは推測するに易い。
「……バカか」
彼は鼻にかかった笑いを含める。
「お前たちは、何か間違ってる。
自分の体を、意図も簡単に」
パシッ!
乾いた音が、彼の先の言葉を失わせた。
「簡単なんて……そんなわけないじゃないっ!」
今にも溢れ出そうな涙を拭おうともせず、彼女の瞳は、真っ直ぐに彼を捉えている。
「私たちは……私たちはね……必死なんだよ?
好きな人に振り向いてもらおうって……
皆、腹くくってんだから!」
「………………」
彼は何も言い返せなかった。
居心地の悪い静けさが立ち込め、互いにやり場のない視線を机に向ける。
漸く出たのは
「……一人にしてくれないか」
という彼の言葉だった。
すっかり暗くなった部屋の中で、悠は一人、ベッドに寝そべっている。
承認を気安く下してしまったことが、まさかこんなに自分を苦しめようとは、彼はちっとも思っていなかった。
これからどうなってしまうのか、それは誰にも予想がつかない。
ただ、彼の中で大きな決心がつこうとしていた。
────────
次の日の放課後。
悠たちは駅の近くにあるファーストフード店にいた。
悠たちと言うのは、他にルナと夕貴がいるからだ。
ルナがサークルの責任者、夕貴は副責任者である。
ルナの呼び掛けにより、花嫁選考サークルはファンクラブから派生・独立した。
夕貴は悠の幼馴染みということで、様々な情報やエピソードの提供者を兼ねてそこに就いたのだ。
サークルは非公認団体であるため、学校から部室を提供されない。
故に、このファーストフード店は、花嫁選考サークルのミーティングルームのように使用されていた。
余談だが、非公認団体であるために、顧問は存在せず、活動内容を学校に報告する義務はない。
悪いことばかりではないのである。
両者とも「話がある」と言っていたが、先に切り出したのは悠だった。
「頼みがあるんだ」
ルナと夕貴が構える。
解散を迫られるのではないかと、この状況では思わざるを得ない。
だが彼の口からは出たのは、意外な提案だった。
「一日で替わるのは、やめてくれないか?」
「「え?」」
「皆が一生懸命なのは解るんだ。だから、俺も必死に、慎重に応えたいんだ。