花嫁サークル!! 15
だが、空の広さが逆に胸を圧迫してくるのだった。
それに耐えきれなくなって、彼は携帯を開く。
アドレス帳からルナの名を探し、でも、指を止めた。
他人は今の彼のことをどう思うのだろうか。
羨ましい限りではないか、と思うのだろうか。
少なくとも、彼には『責任』の二文字が大きくのし掛かっていて、悠はそれに押し潰されそうなのだ。
サークルに所属している娘は、皆、ベストを尽くしてくる。
自分を選んでもらうために必死なのだ。
しかし彼は、彼女たちに何もできない。
それどころか、誰かを選ぶことによって、誰かを傷つつけてしまうかもしれないのだ。
その重みを、彼は感じ始めていたのである。
現実逃避。
それを求めて、彼は目を瞑った。
このまま寝てしまえばいい。
現実から隔離されたらいい。
そう思いながら。
悠が家に着いた時には、日がすっかり沈んでからだった。
目を覚ました時には、閉門時間ギリギリにまで時間が進んでいたのだ。
明かりを点けると、晩御飯と思われるものがラップされていた。
添えてある紙片には里奈の名が記されている。
彼はそれを押し退ける衝動を抑えながら、いつものポジションに落ち着いた。
視界がボヤけるのもそのままに、彼は箸を進めた。
────────
朝。
正確には昼にまでなっていた。
スペアキーを室内に持ち込んで携帯のアラームを切ったことにより、外的要因では目覚めないようにしていたのだ。
暫くボーッとしていた彼だが、眠気が完全に引いてしまったこともあり、布団を跳ね退ける。
「コンビニでも行くかな」
一人呟きながら、外着に着替えた彼は玄関を開けた。
「……っ!」
「あ……おはよ」
玄関の向こうに立っていたのは、幼馴染みの小波夕貴(さざなみゆき)だった。
「お前、まさか……」
「うん。花嫁「やめろ!」
突然悠が声を荒げ、夕貴の言葉を寸断した。
「……やめてくれ」
視線を地に這わせながら、彼はまた同じことを呟く。
「どうしたの……?」
二重瞼のパッチリした瞳で、彼女が彼を覗き込んだ。
「……話がある」
彼はそれだけ言うと、夕貴を室内へ招いた。
艶のある黒髪を頭部の後ろで束ねたポニーテールが夕貴のトレードマークだ。
項と旋毛の間から肩甲骨の中央まで束ねられた髪が垂れており、そこからかなり長いことが推測できる。
断っておくが、本日は平日であり、授業も普通に行われている。
にもかかわらず、私服姿の彼と制服姿の彼女が、この部屋の静寂の中にいた。