花嫁サークル!! 142
もちろん、愛には部活動があるため毎日と言うわけではないが、コートを使う他の部との兼ね合いで、筋トレや走り込みのみで切り上げることもある。
そんな時には、よくルナとここで語っていた。
悠のことについて、理想の恋愛について、今までの恋について、そしてまた、悠のことについて……。
よく話題が持つものだ。
しかし彼女たちには、サークルを発足させる大きな切っ掛けになったことも確かであった。
そう、副サークル長は夕貴ではあるが、サークル発足の原動力となったのはこの2人の働きが大きい。
彼に承認を求めた時は、確かにこの2人がその教室に居た。
その理由は、先に述べた過程があったからなのだ。
「愛は私の一歩先を行ってる。何がそんなに心配なの?」
「…………ルナは不安じゃないの?」
質問に質問を返す愛。
「私は……不安じゃない」
……もう諦めている。
その事を知らない愛は、内心でひけを感じていた。
ルナの心はこんなにも強いのか、と。
そしてルナは、敢えて本心を明かさない。
それが愛に、後悔のない試合をさせる力を生むと信じている。
「まどかは愛のことあんなに敵視してたのに……今は2人が親友のように見える。妬いちゃうくらい」
その言葉に、愛は少し口角を緩めた。
「愛のストレートさは後味がいいのよ、きっと。それとも、理央には勝てない? 挑む前から背を向けるの?」
らしくない、とルナはまた呟いた。
「……そうだね」
噴き上がっていた水が止まる。
流れ落ちる水の音が雑音であったかのように、がやがやとした喧騒が音量を上げた。
「私には、直球勝負しかできない」
「それが愛の長所よ」
ルナは笑っていた。
先を読み過ぎて、変化球でしか悠を支えられない自分と比較させながら。
「ありがと」
愛の表情が綻ぶ。
「さぁ、もう戻りましょ? 長いトイレだと思われちゃう」
「久遠くんに思われるより大分マシだよ」
「確かに」
2人は視線を交わし合い、ファーストフード店へ入っていった。
押し入れをひっくり返す悠。
サークルのために自分に何ができるのか。
愛を抱いて、自分の使命を思い出したのだ。
しかし、あると思っていた物が見つからない。
「あれ? どこやったかな……」
独り言を呟きながらガサガサと探索を続ける。
『森』。
結衣が薦めたその著書は、確かに悠も読んだことがある。
しかし、何処を探しても見つからない。
「待てよ……」
動きを止め、押し入れの中で考える。
ヒントはその本以外にもう1つある。
結衣が図書委員長であること。
それは意図的に用意されたヒントではないが、彼が結衣と繋がる唯一の接点である。
昨年の2学期に入ってすぐ『ホップステップ』の購入が金銭的に苦しくなった頃のことだ。