花嫁サークル!! 14
シャワーを浴び終えた彼は、崩れるようにメインスペースへ座り込んだ。
「もうちょっと待ってくださいね〜」
と台所から声がする。
「あぁ……」
と返事をしつつ、急いでパソコンを立ち上げる悠。
(わかばやし、りな……)
彼は、今まさにキッチンに立つ少女の名前をインプットした。
一年生とあるので、高校生には間違いないようだ。
里奈の身長は悠の胸元に頭の天辺が来るほど小さい。
(アニメ研究部……そんな部活あったのか)
彼女の所属部を見て、彼は妙な関心を持った。
「できたのですっ」
里奈は子供のようにはしゃぎながら、いそいそと朝食を並べた。
フレンチトーストが甘い香りを漂わせている。
「遠慮はいらないのですよ〜」
ナイフとフォークでトーストを切り分けた彼女は、口を開けろとせがむように、フォークに刺したトーストを悠の口元に寄せた。
「はい、あ〜ん」
「………………」
彼は照れ臭そうに口を開け、口内に入ったそれに噛み付いた。
「ん……案外、いける……」
しっとりとした生地を噛むと、バター独特の香りが広った。
「よかったです〜」
彼女はニコニコしながら次々に切り分け、あ〜んと促した。
「あ、ご奉仕しますか?」
「いやいや……さっき出したとこだし……」
彼女の言葉に視線を外しつつ、彼は口に運ばれるトーストをひたすら呑み込んでいく。
「ん??」
悠はトーストを頬張りながら彼女の違和感を感じた。
何かが違う。
それを探すように、彼は改めて彼女をチラチラと観察し始めた。
ポリエステルが多目に配合されたツルツルのシャツの襟元から胸の辺りにかけて青いリボンが垂れており、黒いスカートは風通しの良さそうな生地である。
「あ、今日から夏服に完全移行ですよ〜」
空いた皿を片付けながら、里奈が悠に呼び掛けた。
(あぁ、今日から夏服だったか……)
違和感の正体は、彼女の制服だったようだ。
昨日、美鈴が着ていた制服と違っていたのに、彼女の言葉で気が付いたのである。
と言っても、制服の衣替えには夏冬混同させる時期が数週間あり、数日前から夏服の生徒もちらほらいたので、俄にはわからなかったのだ。
それが、今日から完全移行ということである。
(もう6月も半ばか……)
彼はしみじみとしながら、袖を通した。
梅雨前線は南海上に停滞中で、青は空高く突き抜けていた。
五月晴れとは、旧暦では梅雨の合間の晴れ空をさし、まさに今日はそう呼ぶに相応しい天気である。
昼休みの屋上に、サンドイッチを食べ終えた悠の姿があった。
(朝もパン……昼もパン……)
彼は少し物足りなさを感じつつも、歪に切り落とされていたパンの耳の部分を思い出し、笑みを溢していた。
徐に寝転ぶと、晴天が視界一杯に広がる。
彼は何かモヤモヤした気分を昇華するように、それをボンヤリと見ていた。