花嫁サークル!! 140
ちなみに、ピルを処方するのは希望性だったため、通院費は自己負担となっている。
余談だが、通院先は涼子が調べた病院で、全てのスタッフが女性である。
学園祭の後は打ち上げが企画されており、皆通院を続けていた。
いずれ理央にも、その選択が迫られるだろう。
中だしを希望するのか、望まない妊娠を避ける悠の意思を尊重するのかを。
「では、今日はここまでにしましょう」
堅い話はお仕舞いだ。
メンバーたちが肩の力を抜く中で、一人席を立つ愛。
ルナは半ば呆れ気味に息をつき、彼女の後を追った。
「あの……皆さん……」
あちこちで始まる雑談に中断を迫る声。
「折り入って相談があるのですが……」
切迫した表情の純華が、メイド喫茶に対しての不安と自身の気持ちを話し始める。
「涼子さんの言う通りじゃないかしら」
結衣は涼しい顔でアイスコーヒーを持ち上げる。
彼女の明快な性格は気持ちがいいくらいで、イエスかノーか、やるかやらないか、食うか食われるか、といった具合にハッキリとしていてわかりやすい。
「いえ……そんな簡単に割り切れることではないと思います」
噛み付いたのは夕貴だ。
好きな人を呼ぶその響きには特別な物が宿っている。
言うなれば言霊というやつであろうか。
彼にだけ使うから、その呼び方は大きな意味を持つのである。
ルナが悠を未だにああ呼んでいることが、夕貴にその意見をもたらしたのだ。
「でも『お帰りなさいませ〜ご主人様〜』が言えないとメイド喫茶の意味がないよ」
まどかの言う通り、男はそう呼ばれたいがために足を運ぶ。
それが言えなければ普通の喫茶店でも構わない。
「純華のメイド姿可愛いのに……」
美穂の世界は悠と可愛いものとで回っているらしい。
「そんなに深く考えなくても……皆割り切ってると思うし……」
確かに小春の言う通りだ。
誰も慕ってご主人様と呼ぶわけではない。
それが売りだから客をそう呼ぶだけである。
メンバーが心から仕えたいのは、この世でたった一人しか存在していない。
「気持ちはロジックで語れないわ」
透明度の高い紗耶の声がスーッと通り抜けていった。
「あ、あのっ……」
その場で口を開いたのは、全く予期せぬ人物だった。
壊れそうな程繊細なその声は、細いながらも確かな芯を以て皆の意識を向けさせる。
鼓膜を震わせたその瞬間、全ての神経がその響きを欲した。
まさに聞き惚れるという言葉がぴったりの、特徴的な声色の持ち主。
「わた、私が言うのも、なな何ですが……ウェイトレスは、どどうでしょうか……」
「「…………は?」」
皆唖然として理央の顔を覗き込む。
メンバーの視線が彼女に注ぎ、理央の鼓動は早くなっていった。