花嫁サークル!! 130
「そ、か……」
あの公園に行かなければいけない。
悠の心は何故かそう逸っていた。
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次の日。
相変わらずの日射しの下、悠はその公園にやってきた。
熱せられた地面から陽炎が立ち上ぼり、その向こうに見えるくたびれた桜の木がゆらゆらと揺れていた。
その太い幹に手を突き、視線を地に這わせる悠。
砂場に出来た小さな山、ジャングルジムの錆、風に軋むブランコの音。
駆け回る子どもたちと、はしゃぐ声を反響させる回りの民家。
少し遠い所に見える、古ぼけたマンション。
そこに彼女は住んでいた。
──みっちゃん。
面影が呼びかける。
ルナは転校してくる前何処に住んでいたのだろう。
昨年、可愛い子が転校してきたと一時話題をさらったルナ。
クラスが違った悠は、彼女の多くを知らない。
──ゆっくん。
くっきりと浮かび上がってくる憧憬。
ルナの思い出の公園……。
──ずっと仲良しだねっ。
──うんっ。約束だよ? ゆっくん。ゆーちゃん。
(ゆーちゃん……?)
桜の幹から手を離した彼は、徐に携帯を開いた。
「反対っ!」
勢いよく机に手を突いた愛。
対面するルナに飛びかからんばかりの勢いだ。
「何考えてるのっ?! 少し頭冷やして、よく考えてよ」
「それはあなたよ」
紗耶は至って冷静に麦茶を口に運ぶ。
「でも、確かに良い話じゃないわね」
「私は賛成なのですよ」
さして危機感のない声色の里奈。
彼女たちはルナの部屋で、ある提案を聞かされていた。
内容がないようなだけに、ホームページでの集計を行う前に少し意見を聞きたかったのだろう。
彼女たち以外は皆帰省していたのだった。
「二人とも、もう一度よく考えてみて」
ルナは静かな口調で語る。
「私だって、ゆっくんに選んでもらいたい。でもね? 一番初めに決めたでしょ? 『迷惑をかけないようにしよう』って」
その言葉に、愛と紗耶は何も返さない。
「里奈は、どうして賛成なの?」
「仲間が増えることは良いことなのですよ」
ルナに訊かれ、里奈は笑顔で答える。
「久遠先輩を通じて、皆こうして集まっているのです。カオスな関係ですが、目標を共にする同士なのですよ」
「……同志?」
愛は怪訝な表情を浮かべた。
「そうです。仲間です。友だちです。私はサークルに入って大事なものを手に入れたのです。たとえ選ばれなくても……満足なのですよ」
孤独でないことを知った紗耶。
敵対するだけでは見えなかったものが見えた愛。
それぞれ思い当たる節がある。
サークルが彼女たちに与えた影響は、思いの外大きい。
「ま……負けなきゃいいんでしょ?」
「愛?」
「今更一人くらい」
「紗耶……」
素直ではないものの、ルナは二人の言葉を承諾だと捉えることにしたのだった。