花嫁サークル!! 129
理央がどういう人物なのか、もちろん彼女たちは知っている。
「でも、さ……」
口どもる悠。
「先輩……」
美鈴の瞳はキラキラと光っていた。
もしかしたら理央と頼を戻すのではないかという不安から解放された安堵の証だ。
それは美鈴が悠の気持ちを理解しきれていない証拠でもある。
しかし、ルナは全てを見透かしている様子だった。
「私たちに気を遣われているのなら、それは間違いです」
「……ルナ先輩?」
「私たちはあなたの幸せを願っています。それを一番近くで見ていたい……それが、サークルの目標です。もし、私たちを気にしてのねじ曲げた決断なら、サークルの存在自体があなたに『迷惑をかけた』ことになります。それは、私たちの本望ではありません」
ルナは自身の意思を圧し殺して、あくまでサークル長を務める。
サークル長とは、とても辛い立場なのだ。
「……なら、理央を選んだ方がよかったのか?」
「はい。あなたがそうしたいなら、それが一番です」
即答だ。
その返答には、美鈴を諭す意味もある。
いつかは訪れる決断の時。
それがたまたまサークル外の人間で、そのタイミングが今だったのだと教えるように。
「でも、俺には……」
「……わかりました。あなたの決断した一番の答えだったと信じましょう」
苦悩を滲ませる悠。
ルナにはどうしたらいいのかもうわかっているようだ。
それが自分の首を絞めることになっても、悠にとっては最善である方法を。
「……ルナ」
「何ですか?」
「どうして名前、呼ばないんだ?」
先程から「あなた」と言われていることに非常に違和感を感じていた悠。
美鈴には「先輩」、千秋には「あんた」、愛には「久遠くん」……皆それぞれ、情事以外での呼称がある。
しかし、ルナはどうだろう。
殆どが「悠様」だが、自分のいないところでもそう呼んでいるのだろうか。
公のこの場で「あなた」と言われた悠は、ふとそんな疑問を持った。
「名前……ですか……」
「うん。いつも何て言ってるの? 俺のこと」
顔を赤くするルナ。
何か勘違いしている。
「ゆ、悠……様……」
「なんでやねんっ!」
思わず突っ込む悠。
今のこの状況でまさかの羞恥プレイである。
「そうじゃなくて、俺がいないところでは何て呼んでるのって訊いてんだよ」
「え、あぁ……それは……」
別の意味で顔を赤くするルナ。
本人に対してそう呼ぶのは、どこか照れ臭いものがあるらしい。
「ゆっくん」
──ゆっくん……
悠の胸が高鳴る。
セピア色の風景が幾重にも重なっていく。
昨年の転校生から意外な呼称が飛び出し、彼の中の風景は彩られていった。