花嫁サークル!! 128
「まさか……誰かに何かされたのか?」
一瞬サークルの見方が変わる。
しかし理央の首は横に振られ、それは免れた。
「むしろ、見守ってくれてた……悠が楽しいなら、それが一番だったみたいで……」
あくまで彼女の予想であり、直接的に言われたわけではない。
しかし、彼女を捕らえるファンクラブの生徒たちからは悪意は感じられなかったのだ。
ちなみに花嫁選考サークルがファンクラブから派生したのは4月に入ってすぐのこと。
準備段階を経て、5月下旬に承認されたかたちとなる。
従って、紗耶とまどかは直接サークルからスタートしているが、残りのメンバーは当事ファンクラブに入っていたのだ。
「でも……変なプレッシャーを感じちゃって……。私、地味だし暗いし天然ボケって言われるし、よくこけるし躓くし、頭悪いし学習能力ないし魔法が使えるといいなって思ってるし魔法学校に入学したいと思ってるしホームの柱に入れるかなって押してたら駅員さんに笑われるし、それから……」
「り……理央?」
「あっ、ごめんなさい……」
客観的視点から言うと、彼女は思い込みが激しいらしい。
「まぁ、だから……嘘、ついちゃった……」
ネガティブ思考にのめり込む思い込みが、理央にその決断をさせたのだ。
「でも、如月先輩の生徒会が校則をかなり緩くしてくれたでしょ? きっと天の思し召しなの。悠は運命の人だから自分を変えろって、チャンスをくれたんだよ」
「それでイメチェンか……」
「うん……可愛く、ない?」
正直可愛い。
外見よりも中身に惹かれた悠は、中身のかわってない理央の外見がかなり可愛らしくなって、よりグッと心を掴まれる。
彼が普通の環境にいれば、間違いなく彼女の気持ちに応えただろう。
そう、“普通の環境”なら……。
「……ごめん」
「えっ……」
「今の理央はとっても可愛いよ。でも……気持ちには応えられない」
サークルのメンバーが見せつける覚悟の数々。
気持ちの重さ。
それに触れてしまった悠は、彼女たちのことを気にかけてしまう。
ましてや、サークルメンバーでない女の子を選んでしまうと、彼女たちの好意を無下にすることになる。
彼はそう思った。
「そう……だよね……」
肩を震わせる理央。
「……さよならっ」
そして彼女は、弾かれたように店を出ていった。
汗をかいた紙コップ。
玉のようになった滴が滑り、テーブルの上に流れ落ちる。
ざわめく店内の中から静寂を拾い、彼は天を仰いだ。
窓外は暗く、店内照明が目に痛い。
そのせいなのか、悠の瞳には涙が溜まっていった。
「それでいいのですか?」
「里奈っ。美鈴ちゃんも……ルナまで……」
「逃がした魚は大きいのですよ」
美鈴のスリーサイズをバッチリ手中におさめた里奈は、たまたま美鈴の誘いにのってここまで出てきた。
そして偶然にも悠と理央を発見し、ルナに連絡したのだった。