花嫁サークル!! 117
引き抜かれた愚息のみならず、白濁を滴らせるまどかの女口にまでメンバーの舌が及んでいた。
彼女たちの嬌声は夜が更けても止むことはなく、淫らな誕生日会は酣を迎え、彼の気力が途切れるまで続いたのだった。
次の日。
既に昼時を回っているにもかかわらず、皆深い眠りの中にいた。
二人を除いて。
「ねぇ……ルナ」
「……なに?」
寄せては返す波の際に二人は座り込んでいた。
「悠、気付いてないの?」
「……みたい」
ルナの視線は遠くを見詰めている。
そんな彼女の横顔に、夕貴は複雑な心境で視線を向ける。
昨日の悠の態度、ルナも自分たちと同じ誕生日だったことを初めて知ったかのようなあの台詞が、夕貴の脳裏を掠める。
「無理ないよ。私はもう……『みっちゃん』じゃないから」
ルナは水平線の向こうに憧憬を見ているのだろうか。
幼き日を思い出すその顔には、寂しさが滲み出ている。
佐弓ルナ、当時の姓は御園(みその)。
その名字から、当時はみっちゃんと呼ばれていた。
しかし離婚がきっかけで母親の旧姓である佐弓になってしまったのである。
引っ越しの理由も、やはりその離婚にあった。
夕貴は名字よりもルナという名前の方にインパクトを覚えており、彼女がかのみっちゃんであることは直ぐにわかった。
だが悠はどうだろう。
それは、彼の言動が物語っている。
「……教えないの?」
夕貴の質問に、ルナは膝を抱え直す。
「気付いて欲しいことって、あるでしょ……?」
その返答に、夕貴は何も言えなかった。
確かにそういった思いもあるからだ。
ルナの場合、それがあの日の約束なのである。
――ゆっくんのお嫁さんになるっ!
――ゆきもっ、ゆきもなる!
――バカだなっ。お嫁さんは一人だけなんだぞ?
――じゃあ、私ね?
――いやっ! ゆきでしょ?
――そ、そんなになりたいなら、二人ともお嫁さんにしてやるよっ!
――ホント?
――ずっと仲良しだねっ。
――うんっ。約束だよ? ゆっくん。ゆーちゃん。
あの夏の日も暑かった。
変わったのは、彼と彼女たちと、環境だ。
あの日から沢山の時が流れ、様々な事を知り、感情を知った。
だからこそ、ルナはあの日の約束に希望を重ねる。
年を重ね、ルナは気付いていった。
人を好きになることで誰かが傷付くことを。
父親の浮気によって自分が傷付いたように。
悠に対しての独占欲がないわけではない。
寧ろ強い方だ。
でも、あの日の約束のように、二人が花嫁になれる日が来たら誰も傷付かなくて済むという想いも何処かしらに持っている。
しかしそれは、今の日本では不可能なのだ。
だからルナはあの約束だけでも思い出してもらえれば、それで満足なのである。
もちろんそれは希望の一種であって、花嫁に選んでもらう希望とは次元の違った願いなのであった。