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もうじき
官能リレー小説 - 人妻/熟女

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もうじき 23

彼は香織ではない。香織は彼ではない。あらゆる分け隔てるものが蕩けてひとつになればいいとさえ思う。彼が香織と離れて修行の旅を続けていても、呪いのように血のつながりがある。
彼は出産した香織に感謝のキスと生まれた娘に智美という名を残して、オニゴの力を取り戻すための旅に出た。
行くあてなどないのに。
行かないで、と叫びそうになるのをこらえた。
香織は、彼の立ち去る背中を見つめた。
智美は父親の顔を知らない。声も知らない。
巫女の恵美は智美が水の女の因果で、父親と交わる過ちを他の男たちがそうであったように犯さないよう、香織から彼を引き離したのだった。
香織は山の小鳥どもが囀ずる声を聞いて、騒がしいと思わなくなった。小鳥の囀ずり。滝の水音、雨音さえ彼と暮らした日々を何度も思い出させてくれる。
香織は待ち続けているのだった。

第五章 高貴にして澱んだ欲情の血


智美の部屋は和室で、余計なものは置きたくないと簡素な眺めで、必要なものは押入れに隠してあると笑う。
足を踏み入れて、甘いかぐわしさにつつみ込まれた。
綾香とは異なる匂い。香水でも使っているのかとたずねると、化粧なんて化粧水や乳液、口紅だけで、同級生の結婚式にでも呼ばれない限りファンデも使わない、ずぼらな女だと智美がくすくすと笑う。
トレーナーにジーンズのミニスカートという普段着の智美は、髪型もショートカットで、調理を担当しているためかネイルアートなどもしていない。髪の色を染めて軽い茶髪にしているのと、唇に淡いピンクの口紅をしているが、色白なので似合っている。
綾香と次の作品の草稿を作る約束で、しばらく民宿に滞在することにした。綾香は迎えに来るまでに死んだら許さないからと、乳首に噛みついて言った。
綾香だけがしぶしぶ仕事の都合もあるので民宿からいなくなると、山に行き、巫女の恵美からホラー小説のネタになりそうな話を聞き出した。マンガの原案やそのマンガのノベライズをまとめて引き受けることになり、その担当マンガ家も格安で宿泊できると綾香から聞いたらしく、じきに民宿に来ることになっている。
「先生、学生の合宿みたいですね」
「そうだね」
智美に言われて、合宿ではなく缶詰だと内心で思いつつ苦笑した。さらに浮気をしないように女性のマンガ家を監視につけられたようなものだ。
原稿を編集者に渡してもすぐに収入になるわけではないのが業界の風習で、副業でカルチャーセンターの講師や日雇い派遣のアルバイトをしている作家も多い。小説だけでは低収入で暮らすのに余裕がない。
マンガ家はそれなりに有名らしく智美はマンガ家の名前を聞いて、さっそく町の本屋からそのマンガ家の画集を買ってきた。画集の金額を見てマンガ家の方が儲かると思わず考えてしまった。
智美は画集にサインをもらって家宝にするとはしゃいでいた。
「先生の小説は女性向けじゃないじゃないから」
綾香はそう言ったが、画集を見て納得した。このマンガ家に巫女の恵美を会わせたら、創作意欲は倍増するにちがいない。歴史小説をマンガ化することで耽美な同性愛を描くのが得意というより、生き甲斐らしい。
この地域には平将門にまつわる伝説が多く残されていてマンガ家はそれを綾香から聞いたらしい。
こちらも短編で官能小説と歴史小説をあわせたような作品をいくつか書いたことがある。
超能力を持った二つの一族の末裔たちが戦うという陳腐きわまりない思いつきに、時代劇でやれば山田風太郎の忍法帳シリーズだと綾香に話したことがある。
それをマンガ化したいということらしい。
女性の同性愛をこちらとしては書いたことがなく、断ろうと思っていたが綾香が持ってきた依頼で、気乗りはしなかったが断れなかった。

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