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もうじき
官能リレー小説 - 人妻/熟女

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もうじき 24

執筆のみで他の仕事をしないで暮らしていけているのは綾香のお陰で、仕事をしなければただのヒモである。携帯電話も使えない山の民宿でマンガ家と仕事するとは思わなかった。
綾香とのんびり温泉に入り自然を漫喫して帰るはずが、巫女の恵美がもう少し滞在しておいたほうがいいと言い出したのだった。
綾香は巫女様の占いは怖いほど当たるからとふもとの町で出版社に連絡してみたところ、綾香にマンガ家が連絡を取りたがっているとわかる。
「部屋は空いてますから問題ありませんよ。先生は巫女様の次はマンガ家さんを連れて来るんですね。女性に縁がある方なんでしょう」
香織はそう言って微笑した。
マンガ家の松浦深雪は夕方になってハイキングコースの道を歩いてきた。ふもとの町からタクシーを使わずにバスで途中まで来て、二時間以上歩いてきた。バスは途中で利用客がいないのでバス停そのものがなくなる。終点なのだから近いだろうと歩いてみて、かなりきつかったらしい。
「普段、あまり運動なんてしないですからね」
松浦深雪はやせ型で華奢な女性だった。運動しないのはわかる。執筆していて書けるときにできるだけ書いておきたいからと部屋から出ないことがある。マンガ家も似たようなものらしい。
「作者取材のため休載というのがありますよね。あれは本当に取材なんですか?」
「休暇ですよ。原稿をまとめて仕上げて渡しておいて。あと、マンガ以外の仕事をすることも多いですね。連載はきついですよ」
ハイヒールでアスファルトで舗装されているとはいえ、山や雑木林ばかりの風景の中を、坂道でふらつきながら一人で歩いてきたのが、かなりさみしかったらしい。
「申し訳ありません。お帰りは娘がふもとの町まで、ちゃんと送らせますから」
「いえ、こちらこそすいません」
智美が厨房で腕によりをかけて料理をしている間、おたがい挨拶して、雑談した。松浦深雪は愛想がいいほうではないと、実は前もって綾香から聞いていた。
しかし、一人で見知らぬ土地を歩いて不安だったせいだろう。
気さくで、よく話す女性だと思った。
「松浦様、客室に案内します。こちらへ」
「はい、ありがとうございます」
マンガ家というより芸能人のようだと思った。仕事中は愛想の悪い綾香と気が合うということは、もっと無愛想で、しかめっつらで、でも気むずかしいタイプだと勝手に決めつけていたのだが。
「ああ、おいしいっ、しあわせ!」
松浦深雪は鯖の味噌煮を食べて、満面の笑みを浮かべてそう言った。
厨房で智美がよしっと思っているだろう。
「うちのアシスタントに智美さんみたいに料理上手なかわいい子ほしいですよ」
マンガ家は原稿を上げるのにアシスタントを数人アルバイトで雇い手伝いをしてもらう。
「小説家はアシスタントっていないんですよね」
「ええ、残念ながら。
最近は清書がめんどうでパソコンのワープロソフトで直接入力することがふえました」
「私、先生は純文学を書いていた方なので万年筆で原稿用紙に書いて、誰か編集の方とかに清書をお願いしているかと。
あの……『真夏の家』とか好きですよ」
授賞は逃したが、作品を何度も手直しをして文芸誌に掲載されたいくつかの作品がある。
気まずい。
掲載された時は自分が官能小説を書くとは思っていなかった。『真夏の家』はさらに、気負いがあり、文章のあちらこちらにキャッチコピーのような名文もどきが悪く目立つ作品である。
「ありがとうございます、まさか松浦さんからなつかしい作品のタイトルを聞くとは思いませんでした」
智美がこちらの顔をまじまじと見つめている。
自分の憧れているマンガ家から、まるでこちらが大作家のように褒めあげられているのを見て、智美は見直したという感じなのだ。
「今朝、智美ちゃんから画集を拝見させていただきました。僕は最近のマンガは見ないのですが、色々な画材で描かれていて驚きました」
「画集やイラストの仕事のときは、色々やってみたくなるんです。マンガが手抜きなわけではないんですけど、もともと美術が好きなんですよ」
「これはいい、好きだというのがいくつかあって、今回の雰囲気にも近いかなっていう作品があったんですが……」と言って智美に目くばせしてやると、すぐに家宝にすると言っていた画集を持ってきた。
松浦深雪は慣れた感じでサインをする。
「先生、どれでしょう?」

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