PiPi's World 投稿小説

もうじき
官能リレー小説 - 人妻/熟女

の最初へ
 16
 18
の最後へ

もうじき 18

第四章 幻視者


たまたま山に生をうけ、そのしがらみに絡めとられていると感じているからといって、誰もが巫女になり、また水の女になるわけではない。
人は生の根拠を自ら選び獲得することで生き続けるのではなく、根拠そのものなどない。
無底の情欲があふれている。
情欲のやみがたさや愛しさを感じると、そよ風や日の光があるように花が咲くように身を開く水の女たちの淫蕩なる優しさについて、思いつめながら自問し続けているうちに、花が咲き、種を残すように娘らを残して世から去る水の女になりそびれた巫女にすぎないと恵美は、忘れ形見のまだ初潮も迎えていない娘子たちの頭を撫でながら、さみしさを感じる。
「どうしたの?」と言うように顔を見上げて巫女の顔を見るのは、山とふもとの町の間に残された娘子の香織である。
男らの中に血のようにある情欲を感じて、淫蕩さを恥じらいつつさらけ出して生きよと、それが生を世に与えられた根拠のように受け入れる水の女たちは無底に突き落とす交感の悦びの果てに天に還っていく。
娘子はまだ悦楽を知らず淫蕩さも知らず、山の風や日の光がいたるところから入り込み染まり、巫女の見ている前で浅瀬で素裸で泳いでみせる。頭まで水に沈み息が続くまで潜り、上がって顔を出すと巫女に満面の笑みを浮かべ手を振り、また水になるのだというように娘子は潜る。
祈りながら禊をする巫女には水は水であり、流れ落ちる滝の水は肌から体温を奪うものでもある。自らの血のごとくある煩悩や余計なものを洗い浄める儀式だとわかっていても、娘子らがまねをして水に入りはしゃいでいるのとかわらない気がして水から上がる。
山の風は濡れた肌には冷たく鳥肌が立つ。
遠い過去にめったに人は踏み込まない山には、修験僧が蝉の幾重にも入り混ざった鳴き声と頭上に茂った杉の梢に遮られた木洩れ日の中で、自らの心がからっぽになるのを望み、汗ばみながら吐く息と鳴り止まぬ蝉の鳴き声を聞きながら、ただ生きていることを実感したはずである。水も風も同じようにある。
巫女はただ一人の女としてこの世に生まれたにもかかわらず、自分だけは異なるまがいものなのだと思い知らされる気がする。
巫女はイザナミの娘たちの中から選ばれる。
巫女の資質を持つ者から選ばれるが、巫女の恵美は目を閉じて深呼吸する。山の風は恵美をつつんだ。山の風は澄んでいる。青空と風が体に入り、自分が透明な日の光に照らされた山そのものに溶ける気がした。
浄めたかった。
生きる者が持つすべての欲情から遠く離れて、いまここに風のように在りたい。透明な日の光、夜ならば月の光のように在りたかった。
滝の流れ落ちる音を聞き、そのまま目を閉じていると、山の風と同じ呼吸にすぎなくなり、呼吸は滝の水音に溶けてしまうはずだった。
山の風景に染めあげられ、禊の甘い疲労が草も木も滝も山としてあるように日の光と風の中に溶けていき、単純にここに在り、ただ生きていると感じるのが好きだった。
滝から上がってきた香織がふくよかになった乳房や淡い恥毛をそよ風にさらして、白い肌を拭う。
巫女が旅に出ている間に滝で禊をするのは香織だけで、いつか巫女の恵美がしていたように香織も目を閉じてみる。
肌は水の冷たさから拭われたことで火照りに似たじんわりとした熱を感じる。

SNSでこの小説を紹介

人妻/熟女の他のリレー小説

こちらから小説を探す