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もうじき
官能リレー小説 - 人妻/熟女

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もうじき 19

日の光は香織を、花咲く一本の樹木のように照らしている。また日の光は水に反射する白いきらめきでもある。
香織は気だるさを感じて目を開く。滝の水音は繰り返して響き渡り、慣れきってしまえば素通りする単調なものに感じられた。
山の水の中に頭まで潜り込み、水そのものになって透明な世界に降りそそぐ日の光や木々の枝葉の色に染まったまま、時間は永遠そのもので息が続くならいつまでも魚のように泳いでいたいと感じていたのと同じ山は嘘のように退屈に思われた。
裸のままでリュックサックから出した煙草とライターを手にして、岩場に腰を下ろして空を見上げながら深く煙を喫うと軽いめまいがした。
紫煙が立ち昇り、遠くから小鳥どもが囀ずる鳴き声が聞こえた。小鳥どもが何を囀ずり合っているのかわからないが、歌っているように今では思えず、鳴き声は騒がしいとさえ思える。
香織は夏になると民宿に宿泊しにやって来て、祭りの雰囲気に酔ったようにそれぞれの客室で、そうするのが当然のようにセックスして蒲団のシーツを汚して交わる客たちのあえぎやうめきと小鳥の鳴き声は似ているような気がする。
禊をしても香織は特別な力を授かるわけではない。山道を歩いてきた汗ばんでいる肌が滝の水で打たれる。肌から体温が奪われる。滝の音につつまれる。気だるさを感じて水から上がる。それだけである。
なぜだかわからないが、香織は山の水に体ごとつかりたくなる。
すでに滝に打たれる禊も、喫煙とかわらない習慣になってしまっているのだと香織は思う。


彼が訪れた日の夜、雨が降った。
その激しい雨は香織が山の滝で喫煙したからでも、不浄と呼ばれる生理中に、禊したからでもないはずてある。
ふもとの町と山奥の間にある湖の先にぽつりと一軒だけある民宿で、そこにオートバイで夜になる前に到着してよかったと彼は言った。
山奥の神社は男子禁制で、滝は男性でも巫女の許可があれば禊が許される。彼は京都で巫女に会い、山に踏み込み滝で禊をしてもいいと許可されて民宿まで訪れた。
彼は巫女の手紙によればオニゴだと書かれていた。隠れた子と書いてオニゴであるが、それは鬼の子とも書きかえられもする。幽霊を成仏ではなくただ消し去る力があるという者で、霊の気配を感じたりする者や霊を祓ったり結界を作る者とは異質の力がある者である。
オニゴはとてもめずらしい。
彼は二十歳だった。
山を渡り歩く修行者だと言われなければ顔立ちも優しげで、稀人であり調伏する力がある退魔師などてはなく、ファッションモデルや役者や歌手でも違和感なくそうだろうとふもとの町の娘らに思わせられる美男子なのに、オニゴの資質を持つ変人だと香織は知りがっかりした。
オニゴだろうが、カサゴだろうが関係ないが、酒は飲むのか、喫煙するか、ギャンブルはするか、好きな音楽や映画はあるかなど、当たりさわりのない質問をして彼をなごませようと香織は話しかけてみた。
そうして話しかけられることに慣れているわけではない彼は、ギターなら少しだけ弾けると言い出した。他に客もいないから騒いでも気にする者はいない、歌ってあげるから伴奏してと彼は香織にせがまれる。
かき鳴らすギターの音だけでも歌声と歌詞だけでも、雨音の虚ろなくせに何度も何度も繰り返してくる力の前には無意味なものに思えるが、合わさることで甘い響きになっていく気が香織がした。
テントの前で小枝を焚き火にくべながら、彼は香織と向かい合って座っていた。草の匂いがしていた。小枝が燃える匂いよりも、自分の周囲にある草の匂いに陶然となりながら、山奥で目の前に香織がいるのに彼はひとりでそこに在る気がした。
それまで思いもしなかった考えが頭をよぎり、山の中で答えを彼は探していた。
香織は彼が山ごもりをすると言い出したので、ついてきたのである。香織には畜生堂で一人で寝ればいいと寝袋を用意して、テントで毛布で寝るという。滝でただ禊をするだけなら他の霊山でもできる、この山の力を山ごもりをして感じたい、と彼は言った。
バワースポットというものがあると観光地のあれこれを観光客がありがたがるのと同じ気がすると香織は彼に言うと、そうだなと彼は答えて苦笑した。
草の匂いの中につつまれながら、草木を燃やしている焚き火を見つめていると香織は顔が火照り、眠気を感じて、彼をひとり置いて小屋の中で寝袋の中に入る。
ランプの明かりを消して、寝袋の中で目を閉じると彼も何度も寝袋を使っていて、彼の匂いにつつまれていることを想像して抱きしめられているような気がしながら眠ってしまうのだった。

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