神アプリ 98
日向のような温かみを思わせる柔和な容貌を赤くし、カーディガンや白衣を押し上げている胸部の膨らみを揺らしながら近付いてくる博美を、翔真は視線で追っていた。もし新一がB専と呼ばれるマニアに属しとんでもない化け物を寄越していようものなら、直ぐに逆引き≠オて発情≠OFFにしていただろう。
「んんう……」
翔真の背後から吐息を堪えたような息遣いが聞こえ、間もなく、煙草の側に灰皿が置かれた。丸い銀色の、よく見る灰皿で、幅広の縁の4ヶ所に煙草を持たせ掛ける浅い溝が入っている。
「火」
そう言って煙草の箱を取る。ソフトなので、ひょい、と手首を振れば何本か、フィルター部が滑り出してくる。その内の一本を咥え、残りは箱ごと机の上に戻した。
出入り口の方に首を捻ると、背後から博美がジッポを灯して煙草の先に差し出す。
「次はこっちに立て」
紫煙を昇らせる煙草を指で挟み取った翔真は、自分の横の、壁際を顎をしゃくって差した。
博美が壁と執務椅子の間に入り、翔真の方に向き直ると、彼は当然の如く茶色いフレアスカートの中へ手を潜り込ませた。
「んっ、はあああ……」
博美は足を震わせ、たっぷりと吐息を吐いた。前で重ねている手はただそこにあるだけで、腿を撫でる彼を止めようとする気配はない。
(しっかし、どうしてパンストってこんなに手触りがいいんだろう……)
ナイロンとポリウレタンの混合素材が魅せる視覚的エロスも当然のこと、それに包まれた足を撫で回す興奮も堪らず、翔真は茶色いフレアスカートの中で博美の腿を使ってその手触りを堪能する。かたや、もう一方の手で煙草を口に運び、美酒を嗜む如く煙を味わっている。その最中、朝子がジュプジュプとオーラルセックスを施していることで性的快感に昇華している現実は、贅沢以外の何ものでもない。
「あああっ……はあん、んぅっ……」
手を臀部に及ばせじっくりと這わせると、博美は腰を震わせて長い眉をハの字に歪める。彼女のぷっくりとした唇が熱い吐息で湿り気を帯び始めていた。
「大事な所を触って欲しかったら、もっと足を開いてスカートを捲り上げろ……」
半開きの目蓋から覗く博美の瞳が纏わり付くように翔真を差している。前で重ねられていた彼女の手がスカートの裾を摘まみ、じわじわと引き上げられていく。
彼の股座で上下に揺れる頭が心持ちスピードを上げた。
常盤女学院高等部の校舎で、数人の生徒たちが1つの教室に飛び込んでいく光景が見られた。3限が終わった直後のことだ。
彼女らはある4人が固まっているのを見付けると、一目散にその席へ駆け寄った。
「で、いつにする?」
息も整わぬうちから一人が開口した。話題は2限の終わりに話していた続きだ。この席に集まっている全員がその話に参加していたので、単刀直入な発言でも全員が付いていけた。
彼女への返答に、席の主が若々しい張りのある唇から声を漏らした。
「私たちの方で決めておけば、それに合わせてくれるって」
「……ん? 彩菜ぁ、私たちってどういうこと?」
クラスメイトの1人が小首を傾げる。
彼女の疑問に答えたのは、彼女と同じクラスで、且つ所属している部が硬式テニスという点でも同じ、黒髪のポニーテールの美少女だ。
「さっき言ってなかったっけ? 個別に紹介すると時間をとらせちゃうから、みんなに纏めて紹介するって」
「あれ? そうだったかな……」
と、幹事的ポジションの3人を除いた4人が顔を見合わせた。
「うん、まあ、そういうことだから、みんなの都合が合う日にセッティングしたいんだけど。その方が喜んでもらえるとも思うし」
セミロングの茶髪を左のサイドテールに纏めている美少女が、顔を見合わせている4人にふる。ぱっちりしている目を、僅かに濡らして。
「初対面が4人もいたら、逆に混乱するんじゃないかな?」
「大丈夫、翔真さんだもん……」
セミロングの黒髪を緩く巻いている席の主が、うっとりと表情を綻ばせてそう言った。ちゃんとみんな腰砕けにしてもらえるよ……とまでは言わない。
「ね? 翔真さんも、いつでも何人一緒でもいいって言ってたんだし……」
ポニーテールの女の子が言いくるめる。しかし彼女は“彼がそう言っていた”と言えば、彼と面識のない4人にも絶対として作用するということまで知るはずもない。自分自身がそのような状態であることにさえ気付いていないのだから。
「なーんだ、あの王子様がそう言ってたんなら早くそう言ってよ」
「しかもみんな一緒の方が翔真様も喜んでくれるんでしょ? ね、早くスケジュール調整しよっ」
このクラスではない2年生の女の子が手にしているスケジュール帳を開く。
ファン的に彼に敬称を付けずとも、じきに魂からそう呼びたくなるんだろうな……と薄く笑いながら、彼との架け橋を担う3人はスケジュール帳を開いた。だがこの3人も、まさか彼が今学校のどこかで女性教員を法悦の彼方に導いているとは思いもしていないだろう。