神アプリ 87
「スマホ落とすって……」
ぷふ、と吹き出す和彦を翔真はジト目で刺した。
「しっかりしろ。そんなことでは決まるものも決まらんぞ」
「大丈夫。手は打ってあるから」
「模擬面接とか、か?」
「…………まあ、そんなところかな」
ニヤニヤして訊く和彦に返した翔真は、ニィ、と口角の一端を吊り上げていた。
深夜の1時を回った。その部屋からは心地良さそうな寝息が聞こえ、彩月はそれを聞いていた。
長時間の運転に加え、あの一本筋の通った気難しそうなお義父さんを説得するということに、相当気を張ったのだろう。スヤスヤと眠る、子供のような無邪気な彼の寝顔を見ると、泊まるという選択が正しかったのだろうと思える。
しかしながら、その一方で。
スマホがバイブレーションを起こした。アラームのスヌーズ設定を消し忘れていたようだ。和彦に気付かれないように、そして彼が起きないように、音が鳴らないアラームを1時に設定していたのだ。
23時に布団に入り、和彦は運転や結婚の話から直ぐに寝入った。そして自分も、恐らく直ぐに寝たのだろう。しかしそれはラブホテルでの一時が凄まじいものだったからだ。その事実に途方もない罪悪感に見舞われ、涙が溢れそうになる。
けれども、駄目なのだ。こうしてこの時間に目を覚ましてしまったのは、自分の中で絶対の存在と貸した翔真からの命令があったため。二度寝してしまえば楽なのに、身体の疼きに気持ちが昂り、現実逃避を許してくれない。
(ごめんなさい……和彦さん……)
彼の愛情を示すため、頬に唇をあてる。すると和彦は寝惚けた声を上げ、やがて深い寝息を取り戻した。
(よ、よかった……起きなくて……)
そう思いハッとする。そして、起きなくてよかったと思ってしまった自分に絶望した。
深夜、1時になる数分前。翔真はバイブレーションを起こしたスマホを取り、耳にあてた。
「0時59分。きっかりだな」
スレイブの1人が命令通り連絡を寄越したのだ。1分のズレもなく、命じた時間に。
「で、用意はできたのか?」
勉強机の上にある灰皿を、トントン、と煙草が叩く。そもそも翔真がショッピングモールに寄ったのは灰皿を買うためだ。それを購入したことで、自室でも気兼ねなく煙草が吸えるようになった。
「分かってるよ。明日──」
スー、と襖が引かれ、翔真は口を噤んだ。そして、黒い笑みを一杯に広げた。
「──こっちはちょっと遅刻かな?」
襖を閉めた彩月が、ピクッ、と肩を震わせる。振り返った彼女が向ける瞳は許しを乞うように切迫していた。
「お前は時間通りだ、多分。こっちの話だよ」
電話の向こうに言いつつ翔真は回転椅子を45度回し、彩月に身体の正面を向けると、大きく股を開いた。
「んああ……」
ラブホテルでの時に見た、翔真の無言の命令。場所は違うが、寧ろ場所が違うだけで、同じことを要求されていると彩月には分かってしまう。命令の意思を汲んでしまう心に対して、まるでそういう命令を期待しているようにさえ思えてしまう。
(あああああ……)
いくらか翔真に近付くと、情欲が一気に燃え上がり、身体が火照る。早くもジクジクと秘部が疼き、力が抜け、膝から崩れ落ちていた。
「で、何だっけ?」
翔真は電話の相手をしながら、彩月がスウェットの腰ゴムに手を掛けると尻を浮かせた。今度はホテルの時と違い、何も言わなくても下着諸共ずり下げられた。
ビーン、と聳えた剛直に彩月は頬を上気させ、目元から力を抜いていた。つい先程まで感じていた罪悪感はすっかり薄れてしまい、尻を揺らしながら目前の雄々しい屹立にベッタリと舌を張り付け、ネットリと舐め上げていく。
「ああ、明日は夕方までには戻るよ」
そう言って煙草を口に運ぶ翔真を上目遣いに見つめ、茎胴を湿らせていく。小さな舌が縋り付くように長大な男根を滑る様子は殊更淫靡なもので、そうして瞳を蕩かしている美女の容貌がまた獣欲をそそる。
吐き出される熱い吐息が、彼女が発情していることを報せている。舌から及ぶ摩擦にじんわりと快感が滲み、意識が混濁していく。胎内から淫らな涎が溢れており、彼女はもう替えのショーツが片手で脱いでいった。
「で、ご褒美は何がいい?」
「んはあ、れへぇぇぇぇろ、ん……ちゅぷ、くちゅ……」
一頻り舐め上げると唇を押し付けて、啄むように動かしながら肉茎に滑らせる。顔を回り込ませたりして側面に、首を傾けて裏側に、肉棒を倒して表側に、湿った音を立てながら細かくバードキスを浴びせていくのだ。
「ハメて欲しいって? それしか頭にないんだろう?」
「んふぁぁ……」
ここにきて彩月は、電話の相手が“そういう存在”なのだと気付き、愛撫を止めた。しかし翔真に頭を押されると、尖らせた唇を、ブチュウウウ、と裏側に密着させていた。