神アプリ 82
「さ、3回くらい……かな……?」
答えた後、燃えるような羞恥心が湧き顔から火を吹く思いに駆られていた。
「3回!? たったの!?」
「お互いに仕事してるから……特に私が、変則的だし……」
「だからって、流石に足りないんじゃない? オナニーはどのくらいやってんの?」
彩月は羞恥心に打ちひしがれ、髪で顔を隠すように深く視線を落とした。小さくしている身体は微かに震えている。
「2回、くらい……」
白い車が左折して市道に入った。まだ交通量が多いとは言えない。
「そんなんじゃ欲求不満だよね? ああ、そうだ。のってるだけじゃ暇だろうし、オナニーでもしてたら?」
「あああ……も、もう……許して……」
堪えていたのか、許しを乞う声にたっぷりと吐息が混じっていた。
「やれって言ってるんだ」
(んあああっ……)
冷たい命令と下卑た笑み。翔真が示すそれらに、彩月の背筋がゾクゾクと震える。抗いたいのに抗おうとしない気持ちとは違い、身体は彼に命令されることに歓喜しているかのようだった。
(和彦さんと結婚するためだから……)
彩月は右手をスカートの中へ潜らせていった。左手は上へ登らせ、水色のブラウスの上でさ迷わせている。
(やあ……凄く濡れてる……)
右手が辿り着いた股の下は、パンストまでもが湿っていた。そこをグイ、と押してみるとむず痒い場所に圧力がかかり、快感で足が震えてしまう。
「んああっ!」
胸部の膨らみを掬うとブラジャーの裏地に乳頭が擦れ、理性で抑えていた情欲を解放するかのように、甘い電撃が脳天を直撃した。
ビクビクと跳ねた身体を背もたれに預けると心地いい倦怠感が押し寄せ、ズルズルと腰が落ち、シートに浅く座ったような格好になっていた。
「イッた?」
「んぅ、ぁぁっ……イきました……」
「じゃあイクって言えよ。それに、やめていいなんて一言も言ってないだろう?」
微睡み始めた瞳を切なげに歪める彩月は、上からものを言う翔真の声にゾゾゾ、と身を震わせる。
「はい……」
彩月は無意識にそう呟いていた。
口先だけではなく、命令を入れたことを行動でも示していく。
右手の中指を縦に動かして亀裂をなぞると、熱い染みで指先が湿ってしまった。ショーツとパンストを挟んだ刺激は焦れったいことこの上なく、当たり前のように中へ潜り込ませていった。
左手に収まっている乳房を揉むとコチコチに尖った乳首が裏地に擦れる。それがまた堪らない。先程のような鋭い刺激はないが、弱い快感がジワジワと身体に刷り込まれて蓄積していくようだった。
「イクうううっ……ぁっ! んっ! んふうっ……」
肉芽に触れただけで、また甘美な電撃が頭を突き抜けた。蓄積していた快感が爆発して身体を灼き、頭の中がトロトロに蕩けていくようだ。
(気持ちいい……)
今までの自慰とは全く違う。本当に自慰なのかと疑ってしまうほどのアクメと、うっとりしてしまうほどの脱力感。火照る身体と白く濁っていく頭が、このえも言われぬ快楽をもっと欲している。
(ま、まだ、やめろって言われてない……)
クレバスを撫でるとニチニチと湿った音が立ち、彩月は恥ずかしさのあまり頬の紅潮を深めた。しかし行為は止めない。左手にも勢いが付き、乳房を揉み回している。
翔真が運転している横で、姿勢を崩して自分を慰めている事実。車内に艶かしい声と水音が広がっていく。
「ああ、んっ、んっ、んうう……」
窓の外の風景は後ろに流れている。走行中なのだから当然だ。そんな状況で自慰をしていることが異常なのだ。
「イ、イクっ、イクっ、イクうっ! あっ! はぁぁっ……」
フロントガラスには、擦れ違う対向車が見える。目を凝らせば、助手席にいる自分の姿が見えるかもしれない。それなのに自慰をやめられないのは翔真に命令されているからであり、それを受け止めなければならない自分の立場を意識すると、何故か気持ちいい悪寒に襲われる。
「随分溜まってるみたいだなあ?」
「ち、ちが、んぁぁぁ……」
中指を入れると括約筋に力が入り、締め付けてしまう。肉の隙間が淫らな涎で溢れ返っていることに恥ずかしさを感じずにはいられない。
「オナニーじゃ足りないだろ?」
「ふ、あ、ぁぁ、んっ……」
切なげに歪む彩月の目に、ニィ、と口の一端を吊り上げる翔真の横顔が映り込む。彼の言わんとしていることを理解してしまったせいで、腰がクネクネと揺れている。
そして白い車は、何処かの駐車場に吸い込まれていった。