神アプリ 42
金色の旭日章と、中年のオッサンの名前が書かれている。
中年のオッサンは1秒も待たずに警察手帳を閉じた。
「先日──」
「あ、ちょっと待ってください」
翔真は右手でストップのモーションを示しながらオッサン刑事の言葉を切らせた。
「今通話中なんで、先に電話切ってきてもいいですかね?」
「手早くお願いします」
「あーはいはい……」
翔真は部屋へ引き返し、スマホを手に取った。
フリックとタップを繰り返し、数十秒後、スマホを手にしたまま外へ出る。
「そっちの人も警察ですか?」
「あ、はい。自分も警察です」
「警察手帳を見せてもらっても?」
翔真に促され、青年の方も警察手帳を内ポケットから出し、開いた。ムッとしているのかなかなか閉じない。
「これでいいですか?」
「はい。どうも」
翔真は感心なさげに返し、スマホを弄りだす。
「ちょっと、あなたね。こっち真面目に話を──」
翔真の態度に火に油を注がれ語気を強める青年を、中年の方が腕を伸ばして感情を抑えるよう促す。
それは「冷静になれ」というメッセージを込めたものではなく、部下が翔真に失礼を働くのを未然に押さえるための行為だ。そうすることで、中年の方は翔真に忠誠≠示しているのである。
そうこうしているうちにも新規登録≠ェ終わり、翔真を睨んでいた青年の目が敬意を示すものへと変わる。
翔真はスマホをポケットに突っ込んだ。
「で、俺捕まんの?」
翔真の不機嫌そうな態度に、2人の刑事が畏れ戦いた。
わなわなと唇を震わせながら中年刑事が詳細を話し出す。
「あ、いえ。現場付近に、軒先に防犯カメラを設置している店がいくつかありまして、それらの映像を見た限りでは、五十嵐さんの正当性は証明されています。ただ5人ともそれなりに怪我をしておりますので、今日は裏を取りに来させていただきました」
「あ、そう。そんなことより、あんたら栄丸(さかえまる)署の人?」
「は、はい。そうです」
「んじゃあさ、栄丸署の職員の名簿を持ってきてくれないかな? それから事件の話をしてやるよ」
「分かりました。いつ頃お持ちすれば……?」
「早ければ早いほどいい。あ、ここには持ってこなくていいから。入り口の郵便受けに入れといて」
「分かりました」
「あ、それから──」
翔真はポケットからスマホを取り出す。
「──担当刑事なら、301号室に住んでいる人の名前、もちろん知ってるよな?」
そして数分後、翔真は意気揚々と部屋へ戻り、風呂場で待機させていた性奴隷たちを呼び付けた。
「綾子、そこに手ぇ付いて尻を突き出せ」
「はいぃぃ、翔真様ぁぁっ……」
命じられた綾子はデスクに手を付き、翔真に向けて尻を差し出す。
彼は綾子の臀部を開き、肉壷に屹立を埋没させ、心行くまで腰を打ち付けた。
その大学の構内には食堂が3つあるのだが、昼休みには何処も一杯になる。
昼食を求めてごった返すそれらの食堂の中の1つに、なんとか席を確保した3人の女子大生が、いつものように雑談をしながら食事を摂っている。
「じゃーん!」
もう食べ終わる、という頃、先に食べ終えていた知代が何処かのセレクトショップの小さな紙袋の中からクッキーを包んだ透明な袋を取り出した。
「何それ?」
「クッキー」
「いや、見たら分かるけど……」
里美も恵理もキョトンとして知代とクッキーを交互に見やる。
「食べて食べて?」
「え? どういうこと?」
「いいからいいから」
里美と恵理は顔を見合わせ、取り敢えずリボンを解き、クッキーを一枚取り出して、食べた。
「美味しい? 美味しい?」
「うん……それなりにクッキーって感じ」
「イケるイケる。クッキーだよ、これ」
などと言う2人に、知代はガッツポーズを決めた。
「で、どういうこと?」
「何かのプレゼント?」
「うんっ」
知代は首を大きく縦に振ると、次は胸元で手を組み、宙の彼方へキラキラ視線を飛ばした。
「白馬の王子様にお礼をしなきゃ! と思って」
「ハクバノオージサマ?」
里美と恵理は揃ってハテナマークを頭上に連ねた。
「そう。ほら、この前助けてくれた、あの男の人!」
「あ〜……確かにお礼はした方がいいかもね。あのときは私も混乱してて何も言えなかったし」
「それはやめた方がいい。絶対いい」
恵理が同意を示す一方で、里美は首をブンブンと横に振っている。心持ち青ざめているようにも見える。
「見てなかったの? あの人、ラブホの通りに入ってたんだよ?」
「通りに、でしょ?」
知代に指摘されて里美はハッとした。
「それは考え過ぎでしょ。2人じゃなかったみたいだし」
恵理にも言われ、考えが改まる。しかしそれはその日の後の想像の話で、隣から喘ぎ声が聞こえてくる日常までは及ばない。その事実を2人に伝えた。