神アプリ 272
実弟が婚約者を弄び、婚約者はなされるがままに快感を享受して腰を震わせる。そうとも知らずに和彦は、
「あ、ビール。じーちゃんは日本酒だから置いてないよな? 買ってくるかー……」
などと呑気なことを言っている。
「ついでに晩飯も買ってくるよ。何買ってきたらいい?」
「寿司でもとりゃあいいだろう」
「買った方が安いだろ。ついでに買ってくるよ。彩月はどうする?」
彩月は腰を上げた和彦に目を向けた。翔真のそばを通ってから得も言われぬ火照りを覚え、熱を孕む胎内はオモチャの快感でキュンキュンと息付いている。翔真も行くなら行きたかったが、翔真が行かないなら自分も留まり、隠れてねだり倒したかった。
けれども翔真の顎をしゃくるモーションを視界の端に拾うと、
「行く。何もしないのは申し訳ないもの」
と、名残惜しくも答え、命令に従ったことによる快感にゾクゾクと背筋を震わせる。
「じゃあ俺は晩飯までブラブラするかなー」
よっこらしょ、と聞こえてきそうな怠そうな所作で席を立った翔真は、伸びをしてから身支度に取りかかった。
日差しは白い。目映い光に凶暴な暑さを含んで地上を照らしている。快晴だった空にはいつの間にか堆い雲がモクモクと姿を現していて、着々と雷雨を振り撒く準備を進めていた。
けれどもそこからは空模様など窺い知れない。音と声が響く密閉空間が詰め込まれたその施設に窓はなく、そこに集まった者たちは時の経過を忘れるほど今を楽しんでいる。特に今の頃は学校が夏期休暇に入っていて、昼下がりの時間にもかかわらず若者たちのグループがその娯楽施設を占拠しているような有り様だった。
だから彼には好都合でもある────
ショートカットの少女が盆にドリンクを乗せて歩いていく。ここのカラオケはドリンクはセルフになっているらしかった。お陰でジュースを入れている最中、大音量の歌や音に侵され慢心気味になった少年に軟派の真似事をされた。ルックスはよく、恋人になれば自慢できるほどだった。
けれども彼女は断り、その場を立ち去る。彼女もルックスはかなりよく、この手の絡みは慣れたものだった。
それに無駄な時間を使いたくなかったというのもある。むしろこちらの理由の方が強い。早く戻りたくて仕方がなかった。
その、早く戻りたかった部屋に着いた。
ドアを開ける。周囲の部屋から漏れる喧騒と溶け合っていた室内の音がどっと溢れ出す。彼女の正面にあたる部屋の隅に、振り付けを加えながら歌っている友だちの姿があった。
中に入った彼女はドリンクを置くと、歌っている友人から斜向かいにあたる位地へ目をやった。
ドアを開けただけでは死角になっていて外からは見えないその位置に、残りの友人たちがいる。2人は座席のコーナー部分に座る1人の青年に横からしなだれかかり、身体を艶かしくくねらせながら擦り付けていた。
茶色に染めたセミロングの髪を緩く巻いている1人はうっとりと目を閉じ彼と舌を縺れさせていて、ボブカットの毛先を巻いた黒髪のもう1人は彼の耳を湿らせている。2人ともショートパンツから伸びた長い脚を彼の脚に絡ませ、乳房をムニムニとやられて腰をくねらせながら、露にされている赤黒い肉幹に細い指を添わせてシコシコと動かしている。
10本の指の卑猥な蠢きを堪能している肉幹は隆々と聳え、薄暗い部屋の中でヌラヌラと黒光りを放っている。あれを舐め回し、くわえ、ジュプリジュプリとしゃぶりついた果てに長々と吐き出された牡液をゴクゴクと飲んだことを思い出すと、ショートカットの少女の頭は軽く痺れた。
それだけにとどまらない。青年に近付くと身体の芯が熱くなり蕩けそうになる。ゾクゾクしたものが背筋を登り、彼がリクエストしたメロンソーダーを手にして股座に跪くと無意識に腰が蠱惑的なグラインドを始めていた。
彼が口吻を止めるとすぐさまコップを差し伸べストローの先を口元へ近付ける。彼はそれを含みメロンソーダを吸い上げると、耳を湿らせていた少女と唇を重ねた。
「んふぅっ、んぅん……んっ……」
ンクッ、と何度か喉が鳴った。メロンソーダを口移しにされたのだろう。唇を合わせている少女は頬を紅潮させ、艶かしい鼻息を荒らげている。間もなく舌が触れ合い、湿った音が広がっていく。
曲が終わり、スー、と音が引いていく。卑猥で粘質な音と女たちの甘い呻きが際立っていく。カラオケBOXの薄暗い密室に、いかがわしい空気と熱気、臭気が充満している。
「ねえんねえん……終わったからぁ……ねえおにいさぁん……お願い……」
不必要に身をくねらせて歌っていた少女が彼に近付いていく。彼とは、ロビーで空きを待っていた時に出会っただけで、まだ誰も彼の名前を聞いていなかった。
しかし彼は違った。ロビーで見付けたこの4人の少女たちを逆引き≠オ、そうして知った名前を登録≠オている。ただそれだけで4人の中に乱入でき、1時間ほど経った今ではもうこんな状態だ。