神アプリ 15
「ああん、凄いのぉぉ、奥まで来てっ、あん、グリグリするの、気持ちいいっ、うんんっ……」
自分には言ったこともないことを千夏が口にしている。その声はゾクゾクするほど淫らに蕩け、聞いているだけで恍惚が伝わってくるようだった。
「いやあああ……恥ずかしいのに腰が止まらないのぉぉ、ああん、オマンコに擦れてる、はああっ、子宮に擦れてるううん……あああああ……」
腰が止まらない。千夏の方が腰を動かしている。何故? 無理矢理犯されているんじゃないのか?
俊明はようやく根本が間違っていることに気付き始めた。
「あああ! んっ、あっ、すご、ふか、あひぃぃ! もう、また、イッ、イクううううう!」
向こうの様子が一変した。ベッドが軋む音が頻りに聞こえてきて、千夏の嬌声が跳ねるようになり、そして、
「イクイクイク! イクううう! イッちゃううううううう!」
と絶頂を叫ぶ。こんなに快楽に狂う彼女の姿を俊明は見たことがなく、声だけを元にただ想像だけが膨らんでいった。
「ト、トシくん、大学のちか、くに、こう、えん、が、あああああっ、あるで、でしょ、んおおおっ! あっ、あっ、あっ、ひる、やす、みに、そこ、に、来て、絶対、来て、んああ、あああああ……言いました、言いましたから、中にっ、中にぃぃっ……」
(ナカって、ナマ……なのか……)
「んおおおおおお! イクううううううッ──────!」
それからしばらく千夏の掠れた声が響いた。これも俊明が聞いたことがない声だった。
やがて、
「はぁぁ……はへっ、あ、あへぇぇ……ん、ぁっ、はへぇぇ……」
と異様な息遣いが聞こえてきて、そして電話が切れた。
俊明の額には青筋が浮き、目は血走っている。股間はとても窮屈そうだった。
大学の近くにある公園は草木が多く植え込まれており、新歓の時期には桜が咲き乱れる。部活やサークルの新入生勧誘イベントにお花見をする際は、この公園がよく利用されている。
だが今の頃はすっかり葉桜になり、学生はおろか人の姿が殆どなかった。ジョギングコースに取り入れる人は多いが、平日のお昼時に走り回る人など滅多にいない。そんな場所を俊明は疾走していた。
(クソ! 何処だ!?)
この公園は意外と広く、グラウンドのようなものまである。その周りを囲むように坂道が延びており、斜面に草木が埋め込まれている。
坂道の先には展望スペースが設けられており、駅ビルがある方角が見渡せるようになっていた。坂道の勾配は急ではないのだが、土地自体が高地にあるのでそれなりに様にはなっている。
俊明はついにその展望台まで辿り着いて、やっと人影を発見した。
展望スペースにはベンチが3つと雨避けの屋根が付いた六角形の休憩所がある。一辺を除いてぐるりと風避けの板が打ち付けられているのだが、大人がベンチに掛けたら肩から上が出てしまうような高さのものだった。二人の姿はその休憩所の中にあった。
一人は金髪の女の子で、千夏だと直ぐに分かった。何故なら彼女は左へしなだれかかっており、隣の人物の耳や首筋を犬が甘えるように舐めていたからだ。彼女の上気しているうっとり顔が、俊明からは左の半分だけ見えてしまうのだ。
千夏の左に座る男は、右腕を千夏の肩に回しているものの、顔は駅ビルの方を向いていた。俊明からは肩から上の後ろ姿しか見えない。
「ああ……はふん、れろん……んちゅう……」
千夏の濡れた声が吐息に紛れていた。まるで隣に甘えているだけで幸せそうな様子だった。
声のみならず姿までも確認してしまうと気が触れそうになる、と俊明は思っていたのだが、実際はその逆だった。あれだけ登っていた血がサーッと沈んでいき、全力疾走で起こった動悸さえも落ち着いていくような気がした。
その原因は男にある。千夏の隣にいる男の後ろ姿を見ただけで、強烈な印象を与えられていた。彼に歯向かうなどバカらしい、彼は自分の全てを凌駕していると、尊敬の念さえ湧いている。
「来ました……ああん……」
チラッと俊明を見た千夏が視線を彼に戻して言い、また首筋を湿らせる。
男が右から後ろを窺えば、千夏は唇を強請るように男の左の口角や頬に唇や舌を押し付けて回る。
「殺すんじゃなかった?」
「コロス……?」
確かにそんなことを言ったと、俊明は男に言われて初めて思い出す。そして、彼にそんなことをいってしまったという悔恨の念に駆られ、その場で崩れるように土下座していた。
「す、すみません! どうかしてたんです! どうか、どうか許してください!」
恋人に絡見付かれている男に向かって俊明は身を小さくし、地面に額を引っ付けて自分の言動に許しを請うている。男は千夏と舌を戯れさせながら横目にそれを見ていた。
「まあそれはいいからさ、金は?」
「は、はい! 自分が出せるだけ全てお渡しいたします」
「何で?」
「な、何で? それは……僕が使うよりもあなた様に使っていただいた方が、どんな使い方でも有意義だと確信しているからです!」