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神アプリ
官能リレー小説 - ハーレム

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神アプリ 122

「そうだなあ……この辺からあまり遠くないところがいいなあ」
「はい。家賃などは?」
「特にない」
「え?」

 恭子は思わず客の方を窺っていた。特にこれといった特徴がない青年だが、それほど歳をとっているようには見えない。20代の前半くらいだろうか? その辺りの年齢なら安くて交通の便がいい物件を希望しそうなものなのだが。

(よほど稼ぎがあるのかしら……)

 少し羨ましくも思うが、営業スマイルは崩れない。

「間取りは何か……?」
「広いところがいいかな」
「ええ、と……1人でお住みなるご予定ですか?」
「うん。それ、間取りと何か関係が?」
「え? あ……一人暮らしでしたら部屋がたくさんあっても、と思いまして」
「部屋数か……ああ、そうですね。小さく区切ってあるよりはでーんと広い方が見渡せるし……」
「はあ……」

 要領を得られず、恭子は余計な気を回さないようにした。世の中には色んな人がいるんだなあ、と割り切って、機械並に言われた希望を打ち込んでいた。
 その結果。

「こちらはどうでしょうか?」

 恭子はヒットした中の一番上にある物件をクリックし、客も見れるようにノートパソコンを少し回す。間取りは3LDK。11階建てマンションの最上階にある一室で、今年の秋に完成予定という物件だった。

「リビングダイニングが広くなっておりまして、キッチンは今流行りのアイランド式。入り口から突き当たったところに浴室があるんですけど、ここもゆっくりと寛げる広さとなっております」
「秋に完成ってことは、まだ見れないってことだよね?」
「いえ、モデルルームが────あ……」

 時間を確認し、

「申し訳ありません。モデルルームがあるにはあるんですが、今日のこれからの時間ですと、他の方の見学のご予定が詰まっておりまして……」
「ふう、ん……じゃあ、仕方ない」
「あ、あの、他の物件でしたら……こちらなどは」
「いいよ。見学したい人がいっぱいいるってことは、それだけ人気がある物件なんだよね? そこを見て、期待外れだったら考えるよ」
「そ、そうですか……」
「それに、7000万は……ちょっと舐めてたなあ。こっちにも色々準備があるし、相場を知りたかったってのもあるし、とにかくそんなに急いだないんだよ」

(え? ひやかし?)

「まあ、でもいずれ買うし……」

(本気? どっち?)

「で、いつなら見学できるの?」

 恭子はキョトン、としていた顔に営業スマイルの気合いを入れ直し、

「そうですね……明後日の2時から4時の間は、ご都合いかがですか?」
「そこは3時からちょっと予定が……」
「では──」

 こうしてモデルルームの見学の日時が決まると、恭子は典型的な行動として、名刺を差し出した。

「私、小野田恭子といいます。しばらく担当させていただくことになります。よろしくお願いします。お客様は?」
「五十嵐翔真。よろしくお願いします」
「五十嵐様ですね。よろしくお願いします」

 恭子は軽く頭を下げるが、五十嵐翔真とかいう青年の方は、名刺を受けとるなりスマホを取り出して、ナデナデと弄り回していた。

(何なのこの人? 感じ悪い……)

「あの、五十嵐様? もしよろしければ、次回までに他の物件もいくつか挙げて──」

(んうううううっ……)

 突然、強い鼓動が胸を打ち、恭子の口からどっと吐息が流れ出た。一瞬にして身体が熱くなり、高鳴り続けている胸と同じように腰の奥もキュンキュンと疼いて、腰が回りそうになる。

(な、なに……? あああ……)

 頭がクラクラして、視界がグラグラ揺れている。目の前の青年以外が薄くボヤけていくような、そんな錯覚に見舞われる。

「次回?」

 青年は、契約完了後のアンケート用に用意されているボールペンを、名刺の裏に走らせながら言う。その声は先ほどとは全く違う響きで恭子の耳に入り、身体が喜ぶように震える。

「次の次でいいよ。大変でしょ?」

 青年は名刺を差し出しながら、不敵な笑みを浮かべる。

(こんなにドキドキするのいつぶり? ううん、多分……初めて……)

 恭子は戻された名刺を見て、乙女が恥じらうように頬を赤らめた。一方で、妖しく潤む瞳からゾクゾクするような熱視線を送り、ジクジクと胎内を疼かせている。

「はい……」

 吐息に塗れた返事は、名刺の内容に対してのもの。今夜仕事が終わったら連絡するように書かれており、恭子はそれを肯定したのだ。
 恭子の背後で事務処理をしている者たちからすれば、翔真の言葉に返事を返したようにしか聞こえない。聞き耳を立てているわけでもないので会話の内容まではちゃんと理解できていないのだが。それにどのみち、今夜までに他の物件の資料を用意するのは、翔真が言うように、大変なことだった。



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