まおーに任命されました。 30
確かに、登校時から首輪巻いてたら変な目で見られるよな。
「でも良いのか? いくらご奉仕係に他の男子が手を出せないっつっても、お前がヤったってことはバレバレだぞ?」
名前の後ろに丸が付いてない時点で経験済みであることをアピールしているようなものだ。
しかし
「奈々って呼んでください」
とネームタグを掴んで名前を誇示した奈々は
「このタグに書かれている意味は、男子はおろか、女子の中でもご奉仕係だけが知っていることなんです」
と、誇らしげに胸を張った。
「男子は『首輪を填めている女子は魔王様のモノだからエッチなことしちゃダメ』ってことを知ってればいいんで、それだけ今日のSHRで伝えられるそうです」
「へぇ〜……、ん? エッチなこと以外は?」
「それは自由ですよ。告白もデートもお喋りも。ただ、体は魔王様のものだから気を付けてねってわけです。でも実際、ご奉仕係の子が魔王様以外の人に告られたところでOKはしないと思いますけど」
「いやいや、彼氏持ちが何言ってんの……」
「順序の問題ですよ。付き合う前にご奉仕係になってたら、絶っっっ対付き合ってなかったです!」
奈々は語気を強めて言ったかと思うと、次には少し伏し目がちになって弱々しい声になっていた。
「ご奉仕係になる前に彼と付き合って、好きだって気持ちが大きくなって……。だから……自主的に別れるのは難しいです」
「自主的にって?」
「……魔王様が別れろっていうなら別れます……けど、そうなったら責任持って後宮に入れてくださいね? 正妻の一人として」
……何だって?
「今、正妻の一人としてって言った?」
「はい。……?」
奈々はキョトンとしているが、俺が耳を疑うのは当たり前のことですよね?
だって
「正妻の一人としてってことは、他にも正妻がいて構わないってこと……?」
だよな?
「勿論ですよっ。魔王様は私達のオンリーワンとは次元の違ったオンリーワンですから、一夫多妻は当たり前です」
そう言いながら奈々はクスクス笑う。
「あ、あぁ……判ってる。奈々にその中へ入る覚悟があるかの確認を遠回しにしてみただけだ。俺の愛情を注ぐ相手が他にいる可能性があると知った上で、奈々は正妻として後宮に入りたいんだな?」
あからさまに驚くことは魔王として望ましくないので、あたかも試したような口振りで返した。
にしても、我ながら苦しい御託だ……。
「はい……」
奈々は小さな声で肯定し、決意を込めた瞳で俺を見上げる。
「……ま、俺の目に留まるよう必死になって頑張るんだな。後宮に入りたがっているのは奈々だけじゃないんだ。簡単にホイホイ迎えてやるわけにはいかない」
それ以前に、後宮がない。
建てたら入れてねって早苗は言っていたが、後宮は一から建てなければならないのだろうか……。
莫大な金がかかるよな……高校生には到底無理な話だ。
……少し思考が脱線したな。
いつの間にか
「頑張りますっ」
と呟いた奈々が、俺の右手を取っていた。
その手が口元へ運ばれると、伸びてきた舌が指先を滑った。
「んぁッ……はぁん……魔王様、奈々に種付けしてください……んッ……」
奈々は頬を仄かに赤らめ、しきりに腿を擦り合わせながら舌を這わせていく。
呼吸は吐息に変わりつつあった。
「どうしたんだ? 急に」
とは言ってみたものの、実のところもう慣れた。
寧ろ、いつどう豹変してくれるのか楽しみなくらいだ。
「んッ、ぁんッ……魔王様が求めていないときは自分からお強請りしても良いとのことなので……んふッ、んんぅ……」
ああ、そんなことも言ったな。
今は男子生徒も登校してくる時間で場所は昇降口の付近だ。
出来ることが限られている中で、奈々は俺の指を舐めるというお強請り方法を用いたのか。
確かに他に出来そうなことと言えば体を密着させたり、色目を使ったり、キスを浴びせるくらいだろう。
「良い心掛けだ。言葉を使えばもっと良くなるぞ?」
「はい、んッ……種付けしてくださいぃ……はぁッ、あん……」
淫靡な光沢を放つ人差し指と中指になおも舌を這わせながら、引き気味の腰をもぞもぞと捩る奈々。
「言葉の方は勉強不足だな。係活動を通してしっかり学べ」
「すみません……」
口元から手を離す俺を、奈々の残念そうな瞳が見上げている。
ご奉仕係は俺の性欲処理を行う係。
種付けして欲しいという自分主体の考え方ではなく、性処理に使ってくださいという俺主体の見方をして欲しいものだ。
特に俺が求めていない時となると、俺をその気にさせる行為と言葉を選んでもらいたい。
「挽回のチャンスに、俺の教室までの案内を命じてやろう」
「は、はい! ちょっと待っててください!」
しょんぼりから一転、希望で表情を一杯にした奈々は、風紀委員の腕章を付けた男子生徒に駆け寄っていく。
あいつが風紀委員長、若しくは今活動している風紀委員達のリーダーだな。
おそらく委員会活動から抜けて係活動をすると伝えているんだろう。
数秒後には戻ってきて、
「では奈々がご案内させていただきます! んと、取り敢えず靴を履き替えてくださいっ」
と、嬉しそうに昇降口へ誘導した。
俺に関することは最優先事項……それは女の常識ではなく、世の中の常識だ。
委員会活動を途中で抜けると言われても、俺の為ならダメとは言えない。
「ささ、此方です」
奈々は俺の腕を絡め取ると、微妙に胸を擦り付けながら先を促した。
昇降口がある第二校舎を三階まで真っ直ぐに引っ張られていく。
「ここは生徒会室とかがある階だな……」
その階の教室の一つが種付け室にあてがわれていることは既に知っていた。