欲望の果てに何を見る 5
その時、突然インターホンが五月蝿く鳴りだした。
ドアを開けると、そこには二人の女が立っていた。
「ちょっと!あんたのオヤジに会わせなさいよ!」
突然、一方の女が胸倉を掴む勢いで喚き散らした。
この女とは面識があった。隣に住む長田凛(オサダ リン)である。
キャンパス内で何度か見かけたこともあるが、まともに話したことはない。
「ちょ、あの…」
凛の体を抑えながらも、その勢いに少し後ずさりする。
「凛、やめなさいってば」
凛と一緒に来た女は彼女の手を引っ張っていた。
「だってさぁ、こいつのオヤジが悪いんだよ?!」
「あの、だから…」
俺は呆然と立ち尽くし、二人のやりとりを見ていた。
「社長はお亡くなりになりました」
騒ぎを聞きつけてきたのか、背後から和子が間に体を滑り込ませた。
「はぁ?!ふざけんなよ!!」
「何があったか存じ上げませんが、あの方は人の恨みを買うようなことはなさりません。人違いではありませんか?」
和子は今まで見せたことのない見幕で凛を睨みつけた。
「いや、コイツのオヤジだ!コイツのオヤジが……」
確かにオヤジはギリギリのラインでやってきたが、睨まれるなら警察であり、他人から恨みを買うようなことはしていないはずだ。
しかし凛がそこまで言い切るのも何か理由があるに違いない。
「話をききますから冷静になってください。とりあえず中へ」
俺の言葉に冷静を取り戻したのか、二人はその提案に乗った。
「蘭、話してあげなよっ」
中に入るなり、凛は一緒にきた女、長田蘭(オサダ ラン)に促した。
蘭は顔を俯かせ、重い口を開いた。
「昨日…リストラされたんです…」
なんでも、蘭はオヤジの会社で受け付け嬢をやっていたらしい。
しかし昨日、突然何の前触れもなく、退職の告知と退職金を手渡されたと言うのだ。
余談だが、蘭はバイトとして受け付け嬢をやっていたが、半年もすると正社員の話を持ちかけられ、大学を中退して正式に入社したらしい。
「なるほど、だから俺と同い年なのか」
ちなみに凛とは双子らしいので、俺と長田姉妹は同年齢となり、今年21歳になる。
問題はここからだ。
「社長直々に『君には素質がある。将来を約束する』と言われました。それが決め手で入社したんです。なのに………」
「リストラ…ですか」
「はい……」
オヤジがそう言ったんだから、蘭には社員としての素質をもっているんだろう。