龍使いの少年 第二部 26
初めて財団が作られた公爵領が、制裁の対象にされた。
対する公爵は、秘密裏に同盟者を募った。
領内に財団を持つ貴族達に、檄文を発したのだ。
財団取り潰しの前例を作ったら、後で利権を取り上げられると、訴えかけたのだ。
その呼びかけに、多くの反乱軍が集結した。
そんな理由で、ファチュン帝国は解体寸前。
国を二分して、一発触発の状態が続いている。
それに加えて、僕が竜を退治したから魔物の集団も増え始めていて、かなり危険な状態だ。
本来なら、一致団結して魔物に当たらないといけないのに。
帝国軍と反乱軍の間で小競り合いが起きて、千人単位の死傷者が発生していた。
そんな状況で、魔物を撃退しているのは、僕の信者達だ。
お腹がホッコリ膨らみ始めた、妊娠初期の女が戦うのには賛同できかねる。
だが、他に戦える者が居ないのだ。憑依戦闘の奇跡で、鬼神の様な強さを発揮する女以外には。
厳密に言えば、立派な軍隊は存在している。
しかし、内戦で睨みあって、動けない状態だ。
僕の女を守るために、できるだけ早く内戦を終わらせる必要がある。
そんな訳で祭りをお休みして、調停しに行くことにした。
「や、どもども。お久しぶりです」
「これは、竜神皇帝陛下。何の御用ですかな?」
僕が挨拶した相手は、反乱軍のリーダーをしている公爵だ。
妻と娘を孕まされた割に、友好的な態度だ。この状態で、僕を敵に回すのは愚策だけどね。
上手く取り入って竜王を味方にできたら、戦局が大きく変わるのは馬鹿でも解ることだ。
それにしても、僕の称号に竜神皇帝を選んだ辺りが、貴族階級だなと思う。
厳密な序列は、神である竜神≧神の代言者>竜王だ。
庶民は気にしない些細な違いだが、面子を重要視する貴族には重い問題だ。
「内戦終結の根回しに来たよ。僕が帝位を簒奪したら、反乱軍を収めてくれるかな?」
「そ、それは…」
さすがに良い顔はできないみたいだ。
いきなり、自国の皇帝位を奪うと言われたら、当然か。
ひょっとしたら、自分が帝位を禅譲して貰うつもりだったのか。
彼の思惑は、どうでも良い。
予告が終わったから、次は皇帝の所に行こう。
「こんにちは。ファチュン皇帝はどこに居るのかな?」
「貴殿は!」
帝国軍の陣幕に転移した僕に、傭兵の隊長が反応した。死神を目撃したような表情だ。
あらら、帝国に雇われているのかな?
僕の顔を知っている者が居てくれて、手間が省けた。
ドワーフ帝国の竜神皇帝が来ましたなんて言っても、信用されないからね。
「朕が、ファチュン皇帝である」
「おやまあ、驚いた。女帝だったとは」
皇帝という言葉の響きだけで、勝手に年寄りの爺さんだと思い込んでいた。
男なら、脅して帝位を奪うつもりだったけど、女の子なら話は別だ。
「君、僕の嫁さんに決定ね」
「んなっ!」
驚きのあまり、陣幕内にいた臣下達が、言葉にならない叫び声を上げた。
何も無い場所に、忽然と現れた男がそんな事を言えば、当然驚くか。