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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 9

「まあ良いさ。私はハッキリ言って政治の方はあんまり興味無いからね。私は戦争さえ出来ればそれで良い……」
そう言ってお茶請けのクッキーを口元へと運ぶカルラ。
その姿からはとても戦場で馬上から軍刀を振るって敵兵を薙ぎ倒す勇猛果敢な姿は想像できない。
普通の年頃の女性だ……。
そんな事を考えながらディオンは目を閉じてカップのお茶をすする。
「……おい」
「ん……?」
目を開けると目の前にカルラの顔があった。
「わわわわ……!?」
ディオンは驚いて椅子ごと後ろに倒れそうになりながらも何とか持ちこたえる。
「……今度こそ私達(騎兵)に活躍の場面を用意しておいてくれよ、ディオン?」
「はは……善処します(とはいえ騎兵は使い所がなぁ……)」

 この世界(この時代)における騎兵の役割は戦列歩兵同士が撃ち合いで消耗した頃合を見計らって敵の隊列に突撃させてトドメを刺すというのが一般的である。
砲兵、すなわち大砲は逆に歩兵同士の撃ち合いが始まる前に少しでも敵の戦列にダメージを与えるのが主な役目。
つまり主は歩兵で、他の兵科はそのサポートという感じだ。
一般的には……。

帝国の場合は豊富な馬産量と良質な軍馬で、大陸随一の重騎兵隊を編成できる。
故に騎兵の活躍の場は大きい。

それに対してオルタンスは馬産量が少なく、生産量の多くが荷役馬や農耕馬で良質な軍馬は産しない。
故に元来、騎兵は少なめで弱い兵科だったのだ。

だが、そんな中で騎兵を目指したカルラは、士官学校の卒業論文『流動的な騎兵運用の考察』でマクシアム伯にまで認められた才能の持ち主で、決して猪武者と言うわけでない。
ディオンに騎兵隊の銃装も進言したりと、彼女がこの若さで少佐まで昇進したのは伊達ではなかった。

「リドリの奴が得意顔になってるのを見るとムカツクんだよっ!!」

因みに工兵隊長のリドリ少佐はカルラとは士官学校同期。
今回の戦いでは不眠不休で塹壕を掘り勝利に貢献した事で、工兵隊が勲功第一として称されていた。
普段はおちゃらけている彼だが、仕事に忠実で理解力もある彼をディオンも信頼していた。

「あっ、そう言えば・・・リドリ少佐ってまた結婚したみたいですね」

リドリの名前を聞いて思い出したようにイリーナが言うと、カルラとエミリアがピクンと反応する。

セネバース法により左官以上の男性軍人も20歳以上で結婚の義務が生ずるが、リドリは今回で3人目の妻を迎えていた。
そしてディオンは19歳・・・
来年には結婚する義務が生じるのだ。

「姫様にお嬢様に・・・ディオンはモテるからなぁ・・・」

笑い顔だがディオンを鋭く睨むカルラ。
彼女も勇ましくとも女・・・
その心の内が垣間見える表情だった。

「ええ、流石は公国軍期待の星、ディオン様様ですわ」

微笑むエミリアの目も相変わらず笑っていない。
その心の内が穏やかざるのを瞳が物語っていた。

マリアンナとクレアがディオンへの好意を隠そうとしてないのは周囲も知ってる事だが、その周囲も彼女達(片方、もしくはどちらも)との結婚を望んでいる節がある。
クレアとの結婚は男子の後継者を喪ったマクシアム伯の後継者として・・・
マリアンヌとの結婚は、ディオンの姉を妻としたアルベルトやその側近達から・・・
それぞれがディオンの才能を認め、もっと大きな活躍の場を与えようと考えているようなのだ。

ディオンの意思とは無関係に周囲が動くこの状況に、当のディオンは困惑すら感じていた。
軍略には天才的な閃きは見せても、こと色恋沙汰にはとんと疎いのだ。

後世の歴史家からは彼の女性的で天使のような美顔と、悪魔のような軍略から『天魔の軍師』と称される事もある。
そして彼を取り巻く女性関係から、『女を食い物にしてのしあがった』と言う評価もあったりする。
しかし、実物の彼も、彼をよく知るものも、彼に対してそんな評価をした者はいなかった。
美形だけど女に疎い彼を、むしろ微笑ましく見守っているぐらいだったのだ。


「ぶ、ブリアムと言ったら傭兵団たよね!」

話題を替えるようにディオンが言うとエミリアの目が細くなる。

「ええ、間違いなくツヴォアール傭兵団が出てくるでしょうね」

ツヴォアール傭兵団は、ランクネヒトと呼ばれる傭兵達の中でも精鋭と名高い部隊だ。
総数は二千余り。
命知らずの戦いふりであるが、勇猛を通り越して獰猛、冷徹を通り越して残虐・・・
悪名も名高いのだ。

その傭兵隊長、ルバード・ツヴォアールとエミリアは浅からぬ因縁がある。
彼女が士官学校を卒業して一年目、ブリアムに駐在武官として赴任した事があった。

そのブリアムの酒場で彼女はツヴォアール傭兵団の酔っ払いに絡まれレイプされかかったが、近くにあった丸太で殴打した難を逃れた事があった。

だが、運悪く当たりどころの悪かった酔っ払いが死亡。
逆に彼女が謝罪する羽目になってしまったのだ。

謝罪と言う形で当時揉め事を起こしたくない両国が手打ちにしたのだが、その当時の事を思い出すだけでエミリアのはらわたは煮えくり返りそうになる。
そこで初めて会ったルバード・ツヴォアールと言う男。
大柄かつ威圧的、いかにも歴戦の勇士と言った男が椅子に座り不敵に笑っていた。

「関係した者は処分した、これで文句なかろう」

笑う彼の足元にいくつかの首が転がっていた。
彼女を襲おうとして殴打され、死んだ者以外の男達の首だった。

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