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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 8

 自分の宮殿に戻って来たソフィーリアはさっそく侍女のマルタという女性を部屋に呼んだ。
ソフィーリアより10歳年上の美しい婦人で、彼女にとっては宮廷内では数少ない気心の知れた良き相談相手である。
「いかがなさいましたか姫様?」
「うむ……実は非公式にオルタンス公国を訪問しようと思う」
「これはこれは……どうしてまた……?」
つい先日、手痛い敗北を味あわされたばかりの国である。
そこを訪れたいとは……。
ソフィーリアは妹ミュケーとヴァントー公爵の企みについて話した。
「すぐ近くで見てみたいのだ。かの国が……いや、かの国にいるはずの“あの陣”を考案した人間がどう戦うのかをな」
「なるほどそういう事ですか……いやしかし姫様が他人にそんなに興味を抱かれるとは……姫様もご成長なさったという事でございますね。マルタは嬉しうございます……」
にこにこと意味ありげに微笑みながらそう言うマルタに、ソフィーリアは顔を真っ赤にして反論する。
「い…いや!これはあくまで軍人としての知的好奇心とか探究心による物であってだなあ……!と…とにかく早く準備にかかってくれ!」
「はいはい、かしこまりましてございます」

「だいたい私はっ!、姉様にさえ認めて貰えればいいのだっ!・・・姉様のお役に立てればそれでいいのだ・・・」

真っ赤な顔でそう言うソフィーリアにマルタは少し困ったような表情を見せる。
ソフィーリアが結婚しないもう1つの理由・・・
それは、姉シャルロットに対する重度のシスコンのせいだった。
それは崇拝レベルとも言えるぐらいで、彼女が軍人を志したのもシャルロットがそうであったからだ。

無論、5人の皇女の3人までが結婚してるように、皇女にとって婚姻は政治的にも大切だ。
特に男子の後継者のいない帝国にとっては大問題で、ソフィーリアもシャルロットも少なからず縁談はある。
シャルロットはその辺りを心得え『帝国に最も益となる殿方に嫁ぐ』と公言してるようだが・・・
この多少子供っぽい所があり、重度のシスコンであるソフィーリアが理解しているかは怪しい。

マルタが見る限りは理解してないだけに、これが何かのきっかけになればと思っていたのだ。


こうして帝国も静かに動く中、ディオンの周囲も慌ただしくなってきたのであった。


そしてオルタンス公国、リューベルク。
リューベルクのマクシアム伯邸の離れの一棟。
休日の午後にディオン、エミリア、カルラ、イリーナが一室に集まっていた。

何故こんな所に彼らがいるのかと言うと、ここが彼らの育った場所だからだ。
それを説明するには、時を少し戻さねばならない・・・


13年前、通商交渉のもつれからオルタンス公国と隣国ブリアム王国が戦争となった。
国力は帝国の支援を受けたブリアム王国に分があったが、オルタンス公国がよく戦い、3年後に両国は講和した。
この戦いでマクシアム伯は戦術家としての名声を得たが、まだ旧態依然とした公国軍は少なからぬ被害を被ったのだ。

幼いディオンもこの戦いで父を喪っていた。
兵卒であったディオンの父は、勇敢に戦い戦士したと聞き、父は小さな骨壷となって戻ってきた。
そして、母と姉と3人が取り残されたのだが・・・
その母にはすぐ再婚の話が舞い込んできた。

オルタンスには、セネバース法と言うものがあった。
それは先先代の大公の時代に、戦争で夫を亡くした未亡人、セネバース婦人が生活の困窮から子供と共に見投げした事件があった。
彼女の切実な訴えを記した遺書は公国議会まで取り上げられ、大公と議会はある法案を可決するに至る。

『戦災未亡人及び遺児に関する法案』

通称セネバース法と呼ばれるこの法案は、戦災未亡人に国家が再婚先を探し、遺児達も養育や就職斡旋、結婚等を支援するものだった。
そして20才以上の貴族や高級官僚、軍人は、この制度に基づき婚姻を受け入れる義務を設けた。


ディオンもこの制度で母が再婚した訳だが・・・
その再婚相手がマクシアム伯だったのだ。

マクシアム伯はディオンを我が子のように育ててくれ、ディオンもそれに応えるように彼から知識を吸収していった。
そして軍人への道を歩む事になった。

そしてそれはディオンだけでなくエミリア、カルラ、イリーナの母親達もこの制度でマクシアム伯に嫁いでおり、彼らは共に育った仲なのだ。
そしてディオンの姉はこの制度に基づきアルベルトの妻になっている。

嫁いだ姉はこの場にいなくなったものの、こうやってここでお茶を楽しむのはディオン達のささやかな楽しみだった。

ただ、ここでの会話の大半は、普通のこの年代の青年とはかけ離れてるかもしれない。

「これは閣下の情報網からの話だけど・・・ブリアムが関税の大幅上昇を通達してきたみたいだ・・・」
「おかしいですわね・・・それはこちらも飲めない条件ですのに・・・」

ディオンの言葉にエルミナが首をかしげる。
講和以来、両国の交易は堅調で、今更そこをいじる方がリスクだ。

「帝国がブリアムを動かしてる?・・・以前のように?・・・」
「でも、あちらも前回の戦いで相当痛い目を見てる筈ですが・・・」

カレンとイリーナも怪訝な顔をする。
彼女達もここで育ってきただけに、非凡なぐらいの戦術眼は備わっている。
それでも今回のブリアムの動きは理解できずにいた。

「ブリアムだって本気で戦争したい訳じゃないと思うけど・・・何か戦争しなきゃいけない理由があるような気がするなぁ・・・」

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