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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 1

 神聖暦1700年代末……アルサス大陸は戦乱の嵐が吹き荒れていた。
国々は互いに覇権を巡って争い、各地で激しい攻防を繰り広げていた。
そんな中、一人の軍事的天才の登場がアルサスの歴史を大きく変えていく事となる……。

 響き渡る砲声、銃声、兵士達の吶喊(とっかん・叫び声)、馬達のいななき、立ち込める硝煙……そう、ここは戦場である。
「…殿下!近衛擲弾兵連隊、準備完了いたしました!」
「近衛胸甲騎兵連隊も!もうご下命あらばいつでも行けます!」
「ご命令を!殿下!」
「……うむ」
戦場全体を見渡せる小高い丘の上、そこで多くの参謀や指揮官達に囲まれているのは、白馬にまかたがり金モールの付いた優美な軍服に身を包み、見事な金髪を風になびかせた美しい女性であった。
ソフィーリア・ド・アルティレニア(19歳)……大陸最大にして最強の軍事国家アルティレニア帝国の第三皇女にして帝国陸軍元帥でもある。
アルティレニア皇族の多くが男女を問わず軍籍を有しているが、彼女のように実際に戦場まで出て来て指揮を執る者は少ない。
その美貌も相まって兵達から非常に慕われ、敵味方から畏敬を込めて『姫将軍』と呼ばれていた。
さらにその軍事的才能も非凡であり、かつ革新的であった。
彼女の指揮する軍は常に士気が高く、幾多の戦場を経て不敗……負け知らずの常勝将軍として、その名は大陸中に知れ渡り、間違いなく十年……いや、百年に一人の天才と言われ、国内外から畏れられていた。

 そんな彼女の今回の生贄となったのが、帝国の南方に位置する小国“オルタンス公国”……これといった産業も無い農業主体の田舎の後進国で、特に戦略上重要な土地でもなく、本来であれば(大陸最大の帝国とはいえ)貴重な兵力を費やしてまで征服する価値も無い小国であった。
だがこの国の大公が困った人物で、帝国と揉め事を起こした。
帝国が更に南方の大国へと派兵するに当たって、領内を通過させて欲しいと言って来たのを拒んだのである。
面子を潰された帝国は、ならばそんな小国ひねり潰してしまえと怒って軍を進めて来たという訳だ。

 大方の予想では、戦いは帝国の圧倒的勝利で終わるであろうと思われていた。
だが、このオルタンス公国軍にいたのだ。
大陸の歴史を変えるもう一人の天才が……。
「凄い眺めだねぇ〜。軍人として一度で良いからあんな大軍を指揮してみたいよ……」
その男は総勢3万の帝国軍を前に、呑気に折り畳み式の椅子に腰掛けて感心していた。
彼の名はディオン・ファントス(19歳)、アルサス大陸の人間には珍しい漆黒の髪をした好青年である。
階級は、その若さにして何と既に少佐であった。
オルタンス公国軍の制服である鮮やかな青色をした燕尾状の上着に白いズボン、その胸元には参謀である事を示す飾緒が下がっている。
そう、彼は作戦を立てる参謀なのであった。
「フフ……相変わらず余裕たっぷりですわね、参謀殿」
彼の斜め後ろに立った女性士官が微笑む。
淡い栗色の髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけた知的な印象の美人である。
エルミナ・フォートネス中尉(21歳)。
ディオンの副官である。
「……いや、実は結構余裕無いんだよね。帝国軍は3万……対して我が公国軍はその一割の3000を少し超える程度……普通にやり合ったら完全にこっちの負けだ」
「普通にやれば……の話でしょう?」
そう言ってディオンに微笑みかけるエルミナ。
「まあね……そこは参謀である僕の腕の見せ所……」
……とディオンが言いかけた所で二つの声が割って入った。
「ディオン!!!」
「ディオンさぁん!!!」
二人とも若い女性士官だ。
ディオンは少し驚きながらも応える。
「……や、やあカルラ、イリーナ、どうしたの血相変えて? もうすぐ戦闘開始だよ? ちゃんと君達の部隊の側にいてあげなきゃ兵士達が困るじゃないか……」
「そんな事は百も承知だ!!どうしても意見具申したくて来たんだよ!!」
カルラと呼ばれた士官が赤髪のポニーテールと軍服の上からでも判る巨乳を揺らしながら怒鳴りつける。
カルラ・キャバリア少佐(20歳)、その軍服は前面に肋骨状の紐飾りのある独特なデザイン……騎兵の制服である。
もう一人は茶髪のお下げ髪をした気弱そうな女性で、軍服姿でなければ良家の令嬢といった感じだ。
イリーナ・アーティラリー少尉(18歳)、所属は砲兵隊だ。

※ちなみに公国軍の制服は騎兵以外はどれも似通ったデザインだが、青色を基調とした上着の襟と袖口の色が兵科によって異なる(歩兵:赤、騎兵:緑、砲兵:黄色…etc.)。

その激昂したカルラがディオンに詰め寄る。

「圧倒的兵力を誇る帝国軍に野戦だけでも無謀だがっ!・・・テルシオスで挑むとは自殺行為だろうがっ!!」

彼女が怒る通り、兵力差は十倍。
しかも陣形はテルシオス・・・
このテルシオスは『銃兵方陣』とも呼ばれ、鉄砲が戦場に投入された初期の陣形。
三段に配列した銃兵隊を中央に配し、一列ずつ交互に連射すると言う陣形。
これにより重騎士が主力の中世の戦闘から近代戦闘に変わった訳だが、時と共に改良され最早時代遅れになりつつある。
そんな陣形を選択した訳だからカルラの激昂も頷ける。

「君の言う通り、テルシオスは滅びた陣形さ」

何処吹く風のディオンはそう言い笑う。
因みに軍制改革の遅れた公国では、つい近年の公弟であるマクシアム伯による改革までは普通に使っていたのである。
つまり兵士達には馴染みで、誰が見てもよく分かるぐらいだ。

そのテルシオスを布陣したディオンは、どこか余裕綽々の笑いを見せていた。
若くして彼が参謀となり得たのは、マクシアム伯の弟子であり、彼をして『私が教えを乞いたい』と言わしめた頭脳である。

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