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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 23

ソフィーリアが眉を吊り上げる。
ここはまだ帝国公領・・・
伯爵家の私兵なら越権行為どころか反逆罪だ。
そこまでして押し入らねばならない理由があるのだろうか・・・

「わかった、直ぐに兵を率いて向かう!」

即断だった。
これがソフィーリアの将としての持ち味だ。

「お待ちください!!、殿下御自ら向かうのは危険です!、罠の可能性も排除できません!」

当然の幕僚の言葉・・・
彼らの言わんとする事が理解できないソフィーリアではないが、たまにその頭の固さに辟易する。
彼等は優秀な幕僚だ。
しかしこの硬直した思考は、恐らく帝国軍全体の問題なのかもしれない。
それだけにディオンの縦横無尽の戦術が魅力的に見えてしまうのだ。

「殿下、我等が向かいましょう・・・宜しいですか?」

そのソフィーリアの心情を理解したかのタイミングでディオンが言葉を発する。
オルタンス軍の立場からすると、罠に陥っても帝国軍は痛くない。
ただ、自国民を他国に助けられるという恥辱を許せるならばだ。

「できるならば、どなたか御同行願えますか?」
「うむ、感謝する!・・・エスタシオ中佐!、オルタンス軍に同行し、事態を収拾せよ!」

ソフィーリアはディオンの配慮に感謝しつつ、幕僚の一人に同行を命じた。
彼が便宜上の司令官になる事で帝国軍の面目は保てる。
故にディオンに配慮して同格の中佐に命じた訳だ。

「はっ、では行って参ります」

ディオンは幕僚達の非友好的な視線に送られながらその場を後にする。
分かってはいたが、あまりディオンの印象はよく無いと言うか、敵視されて当然ではあった。
同行するエスタシオ中佐も、あまり友好的な表情では無かった。
まあ、それでも邪魔される事はないだろうと、ディオンは50騎程を率いて商家へと向かったのだ。


「よくぞ来てくれました!、連中は倉に!」
「わかりました・・・一網打尽にするぞ!」

到着して主人に門外で泣きつかれ、ディオンは直ぐに兵を動かす。
下男が駆け込んでからそう時間を置いていないせいで、伯爵家私兵は完全に不意を突かれて一網打尽となった。

捕らえられた私兵を前にディオンが進み聞く。

「何が目的なのかな?」
「他国の貴様らに関係ない!!」

当然過ぎる答えだがディオンは眉ひとつ動かさない。
そして倉の様子を見ながら主人に聞く。

「倉は全部、彼らに入られたのですか?」
「はい、鍵を奪われあけられましたが・・・1つだけ空の倉で、そちらは換気で開け放しておりました」

ディオンは頷き考えると、下男にその倉まで案内させた。
そして入口で声を出す。

「オルタンス陸軍中佐ファントスです・・・帝国軍との共同作戦により、クレフェール伯爵家私兵を制圧しました」

ディオンの行動に周囲が静まる中、建物内の死角から青年が出てきた。

「いやはや、見つかってしまったね」
「安全を確保しました・・・どうぞこちらへ」

ディオンと青年は笑い合い、主人と下男は安堵なのかその場に座り込む。
そして伯爵家私兵達は驚愕の表情であった。

「見事な対処でしたね」
「ええ、彼等が優秀でしたので上手くいきました・・・しかし、見破る貴方はもっと凄いですね」

意気投合したようにディオンと青年は笑い合う。

「申し遅れました、私はレムス・ド・アストリア・・・クレフェール伯爵家、次子です」

そう、彼がクレフェール伯爵家正当な後継者で生死不明だった人物・・・
この商家に匿われていたのだった。

彼は長子アルバのクーデターの時に無事に逃げ出し、追っ手から逃れながらこの商家に匿われていたのだ。
だが、捜索の手がここまで伸び、逃亡が間に合わなかった訳だ。

それで倉に隠れた訳だが、彼が選んだ隠れ場所は開け放した倉庫。
大胆不敵な行動たが、なまじ優秀で彼に逃げる間を与えなかった追っ手はまんまと引っ掛かった訳である。
実に危うい賭けだが、この大胆不敵な知略はディオンも感銘を覚えた。
そして、同行したエスタシオ中佐はこの二人のやり取りに度肝を抜かれていたのだ。

ただ彼が非凡ではない幕僚だけに、度肝を抜かれながらも二人に感銘する所があった。
そして、この軍事行動がこれ以上になく成功するであろうと確信するに十分だった。



その通り、これで全てが決した。

レムスがソフィーリアに救出された事により、名分まで失った伯爵領は動揺。
我先へと帝国軍に登校する者が後を立たず、アルバは少数民族ドゥトラ族の側近達と共に逃亡。

こうしてクレフェール伯爵領の内乱は、迅速な帝国軍と公国軍の初の合同作戦によって、いとも簡単に終了したのだった。



騒乱の終結後、皇帝はクレフェール伯爵領を含む国境地帯グレモンテ州をソフィーリアに与え、グレモンテ女公とする令を出した。
これはいくら国境地帯の守備的な要員があれど、まだ未婚であるソフィーリアに皇位を継げるだけの所領を与えたと言うのに等しい事であった。
クレフェール伯爵領はソフィーリアの預かりとして、レムスは彼女の幕僚となった。
これも騒乱の責任的な意味合いもあったが、比較的温情措置であろう。

そしてシャルロットには、オルタンス国境のエンタリオ州を与えられ、エンタリオ女公となった。
ここは貧しい州であるが、彼女がオルタンス大公妃になると言う事を考えれば、実質的には帝国皇女の中で最大勢力となったのだ。

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