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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 21

そして曲調がポルカに代わる辺りでディオンはテラスへと抜け出してひっそり佇んでいた。
ダンスの相手は引く手あまた、立場上踊る必用もあるソフィーリアと違い、田舎国歌の子爵を相手にしようとする物好きはいない。
故に彼がホールから消えた所で気にする者はいなかった。
ただ一人を除いて・・・

「なかなかのダンスでしたなファントス卿」
「いえ、皇女殿下がお相手してくれたからですよ」

謙遜でなく、自分を知るからこその飾らない言葉。
彼をテラスに追ったオットリオ子爵は、好意的な笑みを浮かべた。

「シャルロット殿下がファントス卿をお呼びです、ご足労願えますか?」

オットリオ子爵の言葉に少し考えたディオンだったが、笑みを返しながら答える。

「承りました・・・ご案内願えますか?」
「勿論、さっ、こちらへ・・・」

彼としても、帝国で知りたい人物の一人だ・・・シャルロットは。
オットリオ子爵の案内に素直に付いていきながらも、頭の中はぐるぐると思考を巡らしていた。


そして宴の音色が微かに聞こえる別室に案内されたディオン。
そこにはシャルロットとソフィーリア、そしてアルベルトが既にいた。

「よく来てくれたわ、ファントス卿・・・では、説明をお願い」
「畏まりました、殿下」

シャルロットはディオンに微笑み、オットリオ子爵に説明を促した。

「では、二ヶ月前にクレフェール伯爵領で伯爵夫妻が長子に殺害され、継子が行方不明になった事件がありました・・・」

この話しは帝国の内部事情である。
本来部外者のアルベルトとディオンは顔を見合わせるが、シャルロットは頷きオットリオ子爵を促す。

「帝国政府は長子アルバに詰問使を送り、帝都へ召還させようとしましたが、彼は帝国への忠誠と伯爵の不正を訴えるものの、召還には応じず今に至ります・・・」
「うむ、その話は聞き及んでおる」

オットリオ子爵の説明にソフィーリアは頷く。
彼女もディオン達が居る事に頓着していないようだった。

「長子アルバの母はドゥトラ族の出身、かの部族は帝国領内と隣国カウディール王国に分布する少数民族です・・・故に帝国政府は事態を長引かせる事を憂慮して、この事態をシャルロット殿下に一任する事を決めました」

カウディール王国は帝国と並ぶ強国であり、互いに争う事もしばしばあった。
しかし、大国同士・・・
争えば双方被害が多く、近年は小競り合いで終わる事の方が多い。

だがそれは、互いに覇権を狙わないと言う意味では無い。
隙あらば狙うのがこの世の常であった。

つまり、帝国政府はクレフェール伯爵家の内乱にカウディールが関与してる可能性を排除できないと見ていると言う事だ。
そして、帝国元帥であるシャルロットに一任と言う事は、軍事行動で事態を打開しろとの事だろう。

「ソフィーリア陸軍元帥、直ちに軍を編成してください」
「はっ、了解した、全権委任司令殿」

仲の良い姉妹とは言え、互いに軍人としての顔でそう言い合う。

「アルベルト太子殿下・・・全権委任司令として正式に要請させて頂きます・・・クレフェール伯爵領への軍事行動にご参加ください」
「承知しました、皇女殿下」

アルベルトも即答。
ここに呼ばれて話を聞いた以上、こうなるのは予測してたのだろう。

ディオンは地図を見ながら考え込む。
そして、オットリオ子爵の捕捉説明を聞く。

クレフェール伯爵家には二人の男子がいて、長子アルバは当年30歳、次子で後継者のレムスは19歳。
どちらも優秀だったと言う。

一夫多妻の大陸諸国家においては、後継者は母親の身分で決まる事が多い。
クレフェール伯爵家も次子のレムスが正妻の子、長子のアルバは少数部族の賤民の子と身分が違い過ぎる事で次子が後継者となっていた。

たが、なまじ優秀であるが為にアルバは我慢ならなかったのか、それが今回の凶行に繋がったと言われていた。

そんな捕捉説明を聞きながら、ディオンは地図に目を落としながら問う。

「隣国とこの地域の食料相場に大幅な変化はありましたか?」
「いえ、隣国までは分かりませんが大幅な変化は無い模様です・・・まあ、大幅な上昇は軍事行動起こす以上避けられませんが、帝国では備蓄物質を出して相場を安定させるので問題はありません」

彼の質問に少し戸惑いながらオットリオ子爵が答える。
だが、ディオンは彼の思惑とは違う事を考えていたのだ。


「では、隣国の食料相場を調べて欲しいのと・・・ソフィーリア皇女殿下、軍の編成にどれぐらいの時間がかかりますか?」
「うむ、今回は二万を編成すればよかろう・・・ならば一月だな」

ソフィーリアの答えを聞いて、ディオンはまだ地図から顔を上げずにいた。
彼が考える時の癖だ。

「なら五千の騎馬兵なら一週間で可能ですか?」
「五千っ?!・・・一週間で可能だが、アルバはクレフェール伯家兵を掌握してる可能性があるのだぞ!・・・いくらなんでも少ない!」

万全の布陣で圧倒的に叩き潰すのはソフィーリア、そして帝国軍の基本戦術とも言える。
故にこの反応は当然だった。

「恐らく、相手が欲しがっているのは『時』です・・・」

ディオンが初めて地図から顔を上げた。
女のような優男に凄味が入り、ソフィーリアはハッとする。
あの戦場で見た表情と同じだった。

「隣国から食料調達してる可能性もありますが、隠して大々的にはできにくい事を考えると、まだ準備が整っていない可能性があります・・・」

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