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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 3

 ――再び帝国軍陣営……
「テルシオだと……?」
ソフィーリア皇女は公国軍の陣容を見て訝しげにつぶやいた。
「いやはや……さすが時代遅れの公国軍ですな」
「今時テルシオとは笑わせる。君主が君主なら軍も軍という訳ですな」
嘲笑する参謀や指揮官達。
だがソフィーリアだけは何か得体の知れない物を公国軍の陣容に感じていた。
(本当にただのテルシオなのか……もしや巧妙な罠では……いや、考えすぎか……)
例え公国軍が何か企んでいたとしても十倍の兵力差だ。ちょっとやそっとで覆せるものではない。
彼女は胸中に僅かに芽生えた疑惑を払拭し、指揮杖を振るって宣言した。
「では始めよう……全軍、前進!!」

 ラッパ手が高らかに進軍ラッパを吹き鳴らす。
軍楽隊が軽快な音楽を奏で始め、それに歩調を合わせて兵士達の隊列が前進を開始した。

この時代の戦闘は基本的に隊列を保ったままの撃ち合いである。
大砲もさることながら銃の命中精度も、およそ信頼に足る物には程遠い。
狙った的に当てるなどもってのほか。
ゆえに大勢による一斉射撃で鉛弾の嵐を敵にぶつける……まさに『ヘタな鉄砲、数撃ちゃ当たる』という考えである。
しかし、こんなつまらない戦いで兵士を損耗させるのは本意でないし、無駄な損耗はこの姫将軍の最も嫌う所だ。

戦術家として名高いマクシアム伯は彼女も知ってるし、その対戦を楽しみにしていた所もある。
だが、彼は出てこず、その軍は脆弱にしか見えない。
楽で損耗の無い戦いは良いが、不毛過ぎて溜め息しか出ないソフィーリアであった。

「敵軍向かってきます!、全力疾走です?!」
「なに?、何を考えてる?!」

伝令の言葉に耳を疑うソフィーリア。
銃兵が疾走すれば銃は撃てない。
それどころか、横陣隊列は此方の的にしかならない。
一瞬混乱するソフィーリアだが、伝令の次の言葉に更に混乱する事になる。

「敵軍っ?!、消え去りましたっ!!」
「なっ、何を言ってる?!・・・軍勢がいきなり消えるなどありえない!」

後にこのオルタンス公国北部、アカリネア平原での戦いは、アカリネア会戦として歴史に名を残すが、それは帝国軍の混乱から始まったのである。


 
そして、オルタンス公国軍。

「歩兵隊、塹壕に到達っ!、配置完了っ!」
「うむ、作戦通りだな」

アルベルトは野戦図から顔を上げ、ディオンを見る。
ディオンも静かに頷く。

圧倒的兵力差を挽回する最初の手段こそ、この塹壕戦術である。
リドリ少佐率いる工兵隊が事前に用意した横穴・・・
つまり塹壕に走って入ったから帝国軍には一瞬消えたように見えたのだ。
ディオンがパイク兵を用いず銃兵のみの編成にしたのも、銃撃戦では死兵となるからだ。
数少ない兵力で死兵を作る余裕なんて無いからだ。

無論、最初からテルシオスをするつもりなんて無い。
あれは帝国軍向けのフェイクと、初動の作戦行動を容易にする為だ。

兵士と共に塹壕に飛び込んだ歩兵隊長シェルター少佐も、この戦術に手応えを感じていた。

「全員構えっ!、一斉に行くぞ!」

塹壕から銃が一斉に飛び出て並ぶ。
その数二千五百。
帝国軍の戦列陣一段より多い。

「撃てぇっ!!」

シェルター少佐の号令と共に公国軍の銃が火を吹いたのだ。

公国軍の一斉射撃に前面の槍兵隊、そして一列目の銃兵隊がバタバタと倒れる。

「撃ち返せっ!!」

銃兵士官が怒声を上げ帝国軍も応射するものの、空しく大地に弾を献上するだけであった。

「敵軍は穴を掘りそこから射撃してる模様!、このままでは我らが的ですっ!」

伝令の言葉に幕僚達はざわめくが、ソフィーリアは笑っていた。
いや、笑うしかなかった。
これは自分の驕りであろう。

「やってくれるではないか・・・」

そう低い声で言うと、直ぐに命令を下す。

「左右両陣の騎兵隊を動かせ!、穴の向こうに回りモグラ共を叩きだせ!、騎兵隊が回り込んだ後に槍兵隊を前進させよ!」

初めて見る戦術だが、小癪だ。
小癪であるが、小気味良い。
マクシアム伯が出ずとも、弟子達は優秀と言う事か・・・

「だが、惜しいかな・・・兵力が無い」

ソフィーリアは呟く。
良い戦術だが、対処できない訳では無い。
塹壕に入ってしまえば確かに此方の銃撃に強いが、兵を動かす事はできない。
帝国軍の一万の騎兵隊が後ろに回り込んでしまえば、連射の利かない銃兵隊など物の数では無い。
兵力がもっとあれば別だが・・・

 命令を受けた騎兵部隊が二手に分かれて塹壕の両端へ向かう。
鉄の兜と胸甲で武装した帝国軍自慢の重騎兵だ。
彼らは重い甲冑で全身を固めた前近代的な『騎士』とは似て非なる存在……銃弾砲弾の飛び交う近代戦に適応して進化した『騎兵』なのである。
古代から騎馬による突撃は歩兵にとっては脅威であり、言うなれば200kgの塊が50km/hで突っ込んで来るようなものだ。
特にこの帝国軍胸甲騎兵の武勇は姫将軍ソフィーリアの名と共に大陸中に知れ渡っており、その突撃を阻む事が出来る者は大陸にはいないと言われていた……。

 そう!その日までは……!

 帝国騎兵が塹壕の端に到達しようとした瞬間!……彼らに襲いかかったモノがあった。
それは雨あられと撃ち込まれる砲弾の嵐だった。
そう、先ほどディオンが砲兵隊のイリーナに指示していた『指定のポイント』がそこだった。
動き回る敵ではなく、敵に来られると困る自陣の弱点部分への集中放火……まさに逆転の発想であった。
馬には狭い塹壕の端に殺到しつつあった帝国騎兵達はことごとく薙ぎ倒され、残った者達も手出しが出来ない。

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