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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 2

ディオンはカルラを楽しそうに見ながら言う。

「テルシオスは我が軍が慣れ親しんだ陣形で最も部隊行動がスムーズだよ・・・それにこれは只のテルシオスではない」

そう言い今度はイリーナを見る。

「大砲隊は指示があれば砲撃開始、ポイントは指定した通りね」
「た、大砲に精密な砲撃なんて無理です・・・」

鉄砲よりも破壊力に優れる大砲だが、欠点は命中性能の低さ。
動く対象に当てる事など無理と言うか常識外れ・・・
基本は攻城兵器なのだ。

「いいんだよ、当てるのはあくまでも指定のポイント、難しく考えなくていいから」

彼の頭の中には何かのプランがあるようだ。
まだ何か言いたそうな二人だったが、その彼に伝令が駆け寄ってきた。

「司令がお呼びです」
「うん、すぐ行くよ」

ディオンは『また後でね』と言いながら、飄々と司令の天幕に向かったのだった。

ディオンが天幕へ行くと、幕僚達の中心にいた青年が破顔する。

「ファントス少佐、首尾はどうか?」
「準備完了でございます、太子閣下」

オルタンス公国軍の制服に飾りをつけただけの簡素なものを着こなす『太子閣下』と呼ばれた青年は、現大公の長子であり公太子、オルタンス公国軍少将であるアルベルト・ヨヒアム・ファン・オルタンスである。
燃えるような赤毛と聡明さを表すようなアイスブルーの瞳をした24歳で、言うなればオルタンスの希望と言った存在だ。
勿論、ディオンと同じくマクシアム伯の弟子でもあった。

元帥号の無い公国において大将であり国軍総帥は大公が努め、実質的な長官である国軍総指令は中将で、マクシアム伯のみ。
故に少将が一般司令職を務める事となる。
通常太子と言えば『殿下』と呼ばれるのが常であるが、彼は軍人として『閣下』と呼ばれる事を好んだ。

そして天幕にいる幕僚達も大半がマクシアム伯の弟子で、ディオンにとってはやりやすい環境であった。

「我が最大の懸念は・・・勝ちすぎるとマズいと言う事だな」

アルベルトの言葉に幕僚達がドッと笑う。

10倍差の戦力と言え、決して悲観的で無い雰囲気はアルベルト自身が作り出しているのだろう。
故に参謀としてのディオンもやりやすいし、そこが司令官の器なのだろうと素直に感心していた。


「この戦いにきっちり勝って皇女殿下にダンスでも申し込むかな」
「貴官に関しては先にダンスの練習が必要と思うな」

そう掛け合いで笑わせたのは、工兵隊長のリドリ少佐と歩兵隊長のシェルター少佐。
この戦いの重要なポジションを任された若い士官だ。

「全軍、配置完了・・・後は太子閣下の命を待つのみですぞ」

副指令であるヴェルナー大佐がどこか飄々した表情で言う。
現場叩き上げの老将で予備役寸前の所を、この戦いに招集されてきた経緯があった。
そして『どうせ死ぬんだから遺族年金の為に昇進させろ』と上層部に詰め寄り、見事中佐から昇進したと言う。
まぁ、国が滅びれば遺族年金も無い訳で・・・
『年金の為には負けられん』と言ってのけて周囲を笑わせていた。

「では、ファントス少佐、大まかな説明を頼む」
「はっ、まず敵軍戦力はおおよそ三万、騎馬一万、鉄砲一万の編成で帝国式方陣でくると思われます」

帝国式方陣はテルシオスに改良を加え、全面にパイク兵を配置し、その後ろの五段横陣の鉄砲隊でダメージを与えて左右両陣の騎馬隊が包囲殲滅するという戦法である。

「対する我が軍は三千三百、騎馬五百、鉄砲三千二百、大砲五十門」
「我々は通常の三段横陣にしても、二千対千弱・・・撃ち負けどころの騒ぎではないな・・・」

当然だろう。
兵力が違いすぎるのだから・・・

「その通りです、通常のテルシオスのままなら、我が軍は一時間経たずに消滅するでしょう」

なら、どうするか・・・
答えはこの歪なまでの装備と、向こうに無い兵器が関わっている。

「開戦するに当たって、全面に歩兵隊、その後方に騎馬隊、大砲隊は更に後ろのポイントで設置済みです」

ディオンは地図を指差しながら説明を続ける。

「幸い我が領内故、工兵隊には色々仕掛けをしてもらっています」


「こっそり穴を掘るなんて大変なんだぜ」

工兵隊長のリドリ少佐がニヤニヤ笑いながら言う。
彼はそもそも軍人志望でなく、建築家を目指していたが、師範学校の授業料免除に釣られて入った経緯がある。
そこで天職とも言える工兵と言う兵科に出会って軍人になったのだ。

「リドリ少佐の奮闘で我らの準備はほほ完了しております・・・後は皇女殿下が噂通りの名将であれば、我らはとりあえず負けはしません」

意味ありげなディオンの言い回し。
ここにいる誰もが皇女の才能を疑っていないが、ディオンは更に深く彼女の戦術を掘り下げている。
隙の無い手堅い戦術を得意として、敵にするには手強い。
半面、びっくりするような奇策は用いない。
故に名将と呼ぶにふさわしいだろう。

「どのみち我らは奇策しか無い訳だ」

アルベルトはディオンが『只の』テルシオスをするつもりでないのは理解している。
パイク兵すら削って鉄砲を持たせ、騎馬隊にまで鉄砲を持たしているのだから、まず普通の戦術ではない。
ここまで火砲に偏った編成はなかなかなかった。


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