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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 16

「司令部より伝達!!、進軍せよとの事!!」

伝令の言葉を伝えた部下に不機嫌な顔を向けるルバード。
びびる部下だが、彼は殴りも斬りもしなかった。

「我が部隊は一点突破を狙う・・・それ故の待機とでも言っておけ!」

彼にその意志が無いのは明白だ。
勇猛な彼が、珍しいまでの躊躇をしていた。

「なにがいけねぇのですかい?」
「河がな・・・臭うんだよ・・・」

渡河しやすく有利な筈の状況に彼が躊躇する。
だが、誰もそれを臆病とは笑わない。
みんな知っているのだ。
この猛獣のような男は、猛獣故の生存能力に優れてると言う事を・・・

彼がそう言うなら何かがおかしいのだろう。
くしくもディオンの作戦を見破ったのは、この野獣のような男だけであったのだ。


そしてオルタンス本陣。

「そろそろ時間です、閣下」

ディオンが野戦図から顔を上げた。
どこか憂いを含んだような表情は、ソフィーリアがハッとするぐらい綺麗だった。
まだこの時点ではディオンを女と認識していた皇女であったが・・・

「よし!、リドリ少佐に合図を送れ!」
「はっ!!」

そのリドリ少佐は、シルニア河上流地点にいた。

「司令部より伝令っ!・・・『龍を解き放て』との事!」

伝令の言葉に地面に胡座のリドリ少佐は棒を振りながら言う。

「シェルター少佐とキャバリエ少佐に悪いけどさぁ・・・今回もおいらが勲功第一さ♪」

上機嫌の彼が棒で指す向こう側・・・
大きな堤が河の水をせき止めていた。

「隊長ぉ・・・勲功第一はファントス中佐ですぜ、今回も」
「ああ、全く大した『お姫様』だよ・・・今度デートでも誘うかな?・・・あ、そこ準備かかれよ」

軽口を叩きながらも部下に指示を出すリドリ少佐

「キャバリエ少佐に殺されますぜ、隊長」
「なら、キャバリエ少佐も一緒に誘うか!」

既に3人の妻を持つ女好き。
軽口も止まらないが、部下たちも相手しつつ配備完了していった。



「隊長!、準備完了!」
「おう、じゃあ発破!」

彼が棒を振るのと同時に導火線に火が付けられる。

そして・・・

凄まじい轟音と共に堤が破壊され、濁流が下流めがけて押し寄せて行ったのだ。




そして、ブリアム、ツヴォアール傭兵団。

「何か地響きがしますね・・・」

その部下の言葉にルバードが反応した。

「てめぇらっ!、下がるぞっ!!、今すぐだっ!!」

馬首を巡らし走りだすルバード。
部下たちも慌てて河原付近から離れる。


その直後であった・・・

轟音と共に凄まじい激流が河に流れこんでくる。
それはブリアム先陣と中陣、そして後陣の一部を飲み込んでいく。

「なっ!、何だっ?!!」

オットリオ子爵が呆然とその光景を見る。
防塁に取り付いた一部と後陣以外のブリアム軍の大半が激流に飲み込まれたのだ。
ソフィーリアもその光景に震える程だった。


だがこれで終わりではなかった。
既に士気を失った先陣の残りを、オルタンス歩兵達が今度は防塁を乗り越えて撃ち、そして刺していく。
それは一方的な虐殺であった。

そして対岸でも・・・
混乱するブリアム国軍に走り寄る騎兵隊。
そう、カルラが率いるオルタンス騎兵隊だった。
彼女の部隊はあらかじめ対岸で潜んでいたのだ。

「一撃離脱、それでいいからね!」

カルラはそう言いながら銃を馬上で構える。
彼女が持つ銃は歩兵銃より小さい。
これも新兵器『騎兵銃』であった。
この騎兵に銃装備はカルラの発案だったが、ディオンは銃まで観直して改良するように進言していたのだ。

馬を走らせながらの一斉射撃。
800騎程の軍勢が横を抜けつつ撃ち抜けていく。

それはブリアム軍を崩壊させるに十分だった。

我先にと逃亡していく国軍。
元々士気が低い国軍を傭兵隊でカバーしていた弊害が出ていた。
指揮官は怒鳴りながら応戦しようとするものの最早効果は無かった。

「馬鹿指令に言ってやれ!、俺達がケツ持ちするから、とっとと帰りやがれと!!」

混乱の中、唯一軍団を機能させていたルバードが叫ぶ。

「俺達が奴らのケツ持ちするんですかい?!」
「馬鹿野郎!、逃げる為の方便だ!!」

既に彼はこの戦いが終結した事を理解してた。
ならばすることは一つ・・・
逃げ帰るのみである。
それも自分を傷つける事無くだ。

全く躊躇のない鮮やかな判断・・・
この素早い判断のお陰で、多少の犠牲を払いながらも傭兵団とブリアム本軍は撤退を果たしたのだった。


犠牲者4千人余り、捕虜2千人余り・・・
まさしくオルタンス公国の完勝であった。
しかし、アルベルトは軍を停止させ、国境を固めてそれ以上の進軍をせずにいた。

「全面戦争になって藪蛇をつつき出す訳にはいかないからなぁ・・・」

幕舎でお茶を堪能しながら彼は笑みを浮かべる。
政治的センスも持ちあわせている彼はこれ以上の進軍が自国の為にならない事を心得てる。
オルタンスの経済事情から継戦能力はさほど高くないからだ。

チラリと彼が見る視線の先には、驚きすぎて呆然とするオットリオ子爵とその娘(ソフィーリア)・・・
鮮やか過ぎて言葉もなかった。

「どうですかな?、帝都へのいい土産話になりますかな?」
「あ、ああ・・・素晴らしい勝利ですな・・・まさかここまで鮮やかとは・・・」

オットリオ子爵の声は若干震えていた。
これは敵に回すに恐ろしい・・・
主が興味を持つのも無理は無いと思ったのだ。

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