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参謀ディオン・ファントスの一生
官能リレー小説 - 戦争

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参謀ディオン・ファントスの一生 15

そして、開戦を待つオットリオ子爵もこの軍団に疑問が溢れかえるぐらいあったのである。

彼も第二皇女シャルロットの腹心で切れ者と評判の男だ。
その彼からしても、この軍団は余りにも奇妙だった。

「しかし、太子殿下・・・余りにも輸送物資が多いのではないでしょうか?」

子爵が見たのは彼からすると奇妙な歩兵部隊・・・
彼だけでなく大陸基準で見ても、この歩兵部隊は奇妙だった。
全員が銃で武装、それ以外の武装は腰に下げた小刀のみ・・・
接近されたらどうするのかと言う疑問だけでなく、この歩兵部隊が戦場まで荷車を押しながら来た事だった。

「ファントス中佐、説明してあげてくれ」

アルベルトは直接答えず、ディオンに回答を促す。
その言葉にディオンは野戦図から顔を上げる。

この時、ソフィーリアは始めてディオンと言う存在を見た。
後に彼女がこの最初の邂逅を語っているが、この時彼女はディオンを『年の近い綺麗な女性』と認識して共感を得ていたと言うのだった。

「はい、あれは・・・土です」

「???・・・今、土とおっしゃったか?」
「はい、土です」

ニコニコと言うディオン。
男性にしては高い美声と綺麗な顔・・・
それにこの戦場に場違いな朗らかな笑顔に、女性と勘違いしてもそうおかしくないかもしれない。
特に女性士官の多いオルタンスだけに、皇女が間違えたのも当然なのかもしれなかった。

そのソフィーリアと子爵は同じ疑問を抱いていた。
ディオンが土だと言った代物・・・
大量のジュート袋が無数の荷車に満載。
こんな物をどう戦場で使うと言うのか・・・

そして、事も無げに説明をしたこの士官が何者なのか・・・
二人の疑問は増すばかりだった。

『中佐、リドリ隊、キャバリア隊配置完了です・・・』
『砲兵隊も照準完了です・・・』

今回から諜報隊を率いるエルミナと副官として側にいるイリーナがディオンに寄り添い小声で報告する。

ディオンが報告に頷き、アルベルトに目配せした。
アルベルトもディオンに頷き返す。
それは強固な信頼関係を持つ主従だから理解しあえるものだった。

「よし!、歩兵隊前進!!、砲兵隊は号令と共に斉射!」

アルベルトの合図と共に歩兵隊が河原に向かって進み始める。
それを見るようにブリアム軍からも進軍ラッパが鳴り響いた。

シルニア河は穏やかな河で、河幅はそれなりにあるものの水量豊かな時期でも腰当たりの深さ。
現在は河原が多く露出し、深さも膝ぐらいまでであろう。
進軍にもさほど影響は無いようで、大軍のブリアム軍にとっては格好の好条件と言えた。

故に先陣が盾を全面に出し躊躇なく河原へと進軍していく。
それに対して荷車を押すオルタンス軍は河原の直前で荷車をひっくり返した。

「なんと!」

驚く子爵であったが、幕舎の誰もが驚いていない。
それもその筈、中身はディオンの言った通り『土』だ。
できたのは土の袋の山・・・

そこに取り付き銃を構える兵士達。
二人はようやく理解した。
そう・・・
簡易の防御陣地をいともたやすく作り出したのだ。

「総員っ!、撃てぇっ!!」

シェルター少佐の号令がかかる。
それと同じくして大砲も火を噴く。
敵陣の後方に向かって・・・

見事な一斉斉射が敵陣を襲う。
そして飛び交う砲弾の嵐・・・
だがブリアム軍の動きは速く、砲弾は遥か後ろに落ちて行った。

「ブリアム先陣が河に到達!、後陣も河原手前です!!」
「盾を随分揃えてきたなぁ・・・どうするファントス中佐?」

ブリアムの速い動きにもアルベルトは動じない。
むしろ余裕を持って笑っていた。
その余裕に子爵が驚嘆していた。

(これは・・・皇女殿下が興味を持たれる筈だ・・・面白い!)

そしてソフィーリアも1人の士官に興味を寄せていた。
ディオンである。
アルベルトに促され彼が口を開くのを待っていたのだ。

「問題ありません・・・むしろこれぐらい速くないと困ります」

肉薄されれば兵力差と銃兵故の接近戦の弱さ・・・
防塁は築いたものの、接近戦で無類の強さを誇る重装傭兵に勝てるとは思わなかった。

だが、まだこれからだった・・・
彼女は更に驚く事になる。


「敵軍近接っ!!、続々渡河終えてますっ!!」
「いよいよだなっ!!、銃隊列維持しつつ全軍着剣!!」

シェルター少佐がニヤリと笑い号令をかける。
彼は31歳の兵卒からの叩き上げ。
学もなく腕っ節のみで生きてきたが馬鹿ではない。
むしろ度胸と知恵で抜擢されたのだ。

彼と兵士達は銃撃しつつ腰の小刀を銃の先端に金具で固定する。
それは銃剣(バヨネット)と呼ばれる事となる今回より採用された新兵器だった。

「総員っ!、訓練通りだ!!、訓練通りにやるんだっ!!」

彼がそう声をかける。
そして盾を捨て防塁に取り付いた敵に前列が銃剣を刺す。

「ぐわわっ!」
「こいつら槍を!!」
「違う!!、銃だ!」

刺すと下がり次の列が銃撃し刺す。
防塁のせいで盾を捨てざるを得ず、ブリアム軍は接近戦を生かせずにいた。


そしてブリアム軍中陣、ツヴォアール傭兵団。
1000名の軽装傭兵団は騎馬中心の編成。
しかしこの部隊の動きは遅く、ようやく河原手前・・・
丁度ブリアム国軍と並ぶような位置になっていた。

「どうもいけねぇな・・・」

ルバード・ツヴォアールは不機嫌そうに呟く。
本能的に彼は部隊の進軍速度を緩めていた。

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